バングラデシュ人集団における肩甲骨の性差 – 放射線学的研究

はじめに

肩甲骨(Scapula)は、上腕骨と鎖骨を接続する重要な解剖学的構造であり、その形態は人種、性別、地域によって異なります。本研究では、バングラデシュの成人男性と女性における左肩甲骨の形態測定を行い、法医学的調査や臨床応用のための基礎データを確立することを目的としました。

研究方法

本研究はダッカ医科大学解剖学科にて、2017年7月から2018年6月までの期間に実施された横断研究です。対象者は25~50歳の健康な成人男性50名、女性50名の計100名であり、ダッカ医科大学病院放射線・画像診断科で撮影された前後(AP)方向の肩関節X線画像を使用しました。画像解析にはRadiAnt DICOM Viewerソフトウェアを用い、以下のパラメータを測定しました。
• 肩甲骨の長さ
• 肩甲骨の幅
• 烏口突起(Coracoid process)の長さ
• 棘下線(Infraspinous line)の長さ
• 肩甲棘(Scapular spine)の長さ

統計解析にはUnpaired Student’s t-testを用い、性差の有意性を検討しました(p<0.05を有意水準と設定)。

結果

男性と女性の肩甲骨形態には統計的に有意な差が認められました(p<0.001)。

測定項目 男性(mm, 平均±SD) 女性(mm, 平均±SD) p値
肩甲骨の長さ 157.22±2.91 136.10±3.11 <0.001
肩甲骨の幅 106.92±2.09 101.11±3.50 <0.001
烏口突起の長さ 31.88±2.03 33.18±1.85 <0.001
棘下線の長さ 116.68±2.52 107.42±2.52 <0.001
肩甲棘の長さ 107.83±1.66 106.94±1.98 <0.05

特に、肩甲骨の長さ、幅、棘下線、および肩甲棘の長さは男性の方が有意に大きいことが確認されました。一方で、烏口突起の長さは女性の方が有意に長いという興味深い結果が得られました。

考察

本研究の結果は、肩甲骨の形態が性差によって異なることを示しており、法医学や臨床診断において重要な知見となります。肩甲骨の性差に関するこれまでの研究と比較すると、本研究の結果は以下の報告と一致していました。
• 肩甲骨の長さと幅:Morsiら、Paraskevasら、Polgujら、Di Vellaら、Sinhaらの研究でも、男性の方が大きいと報告されています【7-11】。
• 烏口突起の長さ:Frankらの研究では、男性の方が長いとされましたが、本研究では女性の方が長い結果となりました【12】。Di Vellaら、Sinhaらの研究とは異なる結果であり、人種的要因や生活習慣の違いが影響している可能性があります【10,11】。
• 棘下線の長さ:Chhabraらの研究と比較すると、本研究の男性の棘下線は長い傾向にありました【4】。
• 肩甲棘の長さ:Morsiら、Polgujらの研究でも男性の方が長いとされており、本研究の結果と一致しています【7,9】。

このように、肩甲骨の性差はさまざまな研究で報告されており、本研究の結果もこれを支持するものとなりました。

結論

本研究では、男性の肩甲骨の長さ、幅、棘下線、および肩甲棘の長さが女性より有意に大きいことが明らかになりました。一方、烏口突起の長さは女性の方が有意に長いという結果が得られました。この知見は、法医学的性別判定や整形外科領域での診断・治療において有用であり、バングラデシュ人集団の肩甲骨形態の基準値として今後の研究に貢献するものと考えられます。

いいなと思ったら応援しよう!