肩甲骨の形態とリバースショルダープロテーゼの適合性
概要
本記事では、Torrens et al.(2009)の研究 Morphology of the Scapula Relative to the Reverse Shoulder Prosthesis を基に、リバースショルダープロテーゼの適合性に影響を与える肩甲骨の形態学的特徴を解説します。本研究は、術前計画における3D CTの有用性と、肩甲骨形態に基づくプロテーゼの個別調整の必要性を強調しています。
研究の目的
リバースショルダープロテーゼは、腱板機能が完全に失われた肩関節炎の治療に用いられますが、関節の適合性が問題となることがあります。本研究では、肩甲骨の形態がプロテーゼの適合性にどのように影響するかを解析し、適切な手術計画の指針を提供することを目的としました。
方法
対象
• CT解析群:肩関節周囲骨折(52例)または反復性前下方不安定症(21例)を有する73例(男性27名、女性46名、年齢16~84歳)
• 解剖学的解析群:肩甲骨108個(性別・年齢不明)
測定項目
1. 関節窩頸部の長さ(短い vs. 長い)
2. 関節窩面と肩甲骨後上柱の角度
• Type I(50°–52°)
• Type II(62°–64°)
3. 大きな頭尾方向の関節窩軸と烏口突起基部の角度(平均18°)
4. 大きな頭尾方向の関節窩軸と肩甲骨後上柱の角度(平均8°)
統計解析
• Mann-Whitney U検定およびPearsonのカイ二乗検定を使用(有意水準 p<0.05)
• 観察者間および観察者内の一致度はカッパ統計量で評価
結果
1. 関節窩頸部の長さ
• CT解析群では前方の頸部が短い肩甲骨は42%、長い肩甲骨は58%
• 解剖学的解析群では短い肩甲骨が18%、長い肩甲骨が82%
• 後方の頸部に関しては、CT解析群では短いものが34%、長いものが66%、解剖学的解析群では短いものが60%、長いものが40%
2. 関節窩面と肩甲骨後上柱の角度
• Type I(50°–52°):CT解析群 61%、解剖学的解析群 71%
• Type II(62°–64°):CT解析群 39%、解剖学的解析群 29%
3. 大きな頭尾方向の関節窩軸と烏口突起基部の角度(平均18°、範囲13°–27°)
4. 大きな頭尾方向の関節窩軸と肩甲骨後上柱の角度(平均8°、範囲5°–18°)
すべての測定値において、有意な群間差が認められました(p<0.05)。
考察
肩甲骨形態とリバースショルダープロテーゼの適合性
リバースショルダープロテーゼは、通常の肩関節の構造を逆転させ、関節窩に固定されるメタグレンと上腕骨頭の位置を変えることで、三角筋の作用を強化します。しかし、肩甲骨の形態がプロテーゼの適合性に大きく影響を与えることが分かりました。
1. 関節窩頸部の長さの影響
• 短い関節窩頸部では、関節窩が肩甲骨後上柱に近接し、プロテーゼの下部スクリューを容易に固定可能。
• 長い関節窩頸部では、関節窩をより下方に配置する必要があり、スクリューが肩甲骨後上柱ではなく頸部を貫通する可能性がある。
2. 関節窩面と肩甲骨後上柱の角度の影響
• **Type I(50°–52°)**の肩甲骨では、プロテーゼの下部スクリューが肩甲骨外側縁に十分な固定を得られない可能性がある。
• **Type II(62°–64°)**の肩甲骨では、下部スクリューの固定性が向上し、より安定した骨固定が期待できる。
3. 烏口突起基部と肩甲骨後上柱の位置関係
• 解剖学的に、烏口突起基部は関節窩軸に対して平均18°前方、肩甲骨後上柱は8°後方に位置。
• これにより、固定スクリューの設置方向を適切に調整する必要がある。
術前計画における3D CTの重要性
本研究は、3D CTを用いた肩甲骨形態の評価がリバースショルダープロテーゼの適合性向上に不可欠であることを示唆しました。特に以下の点で有用です。
• 関節窩頸部の長さと形態を把握し、適切なプロテーゼの位置を決定
• 関節窩面と肩甲骨後上柱の角度を考慮し、スクリュー固定の安定性を向上
• スクリューの設置方向を調整し、適切な骨固定を確保
結論
リバースショルダープロテーゼの適合性は肩甲骨の形態に大きく依存します。本研究の結果から、個々の肩甲骨の解剖学的特徴に基づいたプロテーゼの調整が必要であることが明らかになりました。特に、術前の3D CT評価が適切なプロテーゼ設置の鍵を握ると考えられます。臨床現場において、肩甲骨の形態を考慮した個別対応が、プロテーゼの安定性向上と長期成績の向上につながるでしょう。