膝関節の骨形態が運動中の脛骨-大腿骨キネマティクスに与える影響
概要
膝関節の骨形態(大腿骨と脛骨の形状)は、日常の歩行動作中における脛骨-大腿骨の動き(キネマティクス)に影響を与えることが示されています。本研究は、健常な膝を対象に骨形態が関節動態に及ぼす影響を調査し、その結果が臨床的な介入や治療設計にどのように活用できるかを検討しました。
背景
膝関節は、前十字靭帯(ACL)の研究や全膝関節置換術(TKA)において、脛骨の内外旋や前後方向の動きが重要とされています。特に、骨の解剖学的形状がこれらの運動パターンにどの程度寄与しているかを明らかにすることは、ACL損傷予防やTKAデザインの最適化に役立ちます。
方法
• 対象者: 健常な26人(男性13人、女性13人)。年齢は20〜67歳で、膝関節に既往症がないことが条件。
• 測定:
• CTスキャンを用いて大腿骨内顆(MC)と外顆(LC)の幅や屈曲円の直径、脛骨プラトーの傾斜、深さを計測。
• 動画透視法を使用して、歩行(平地歩行、下り坂歩行、階段降り)の間の膝関節動態を解析。
• データ解析: ステップワイズ線形回帰分析を使用し、骨形態と膝関節の動態の関係を評価。
結果
1. 脛骨の内外旋:
• 大腿骨内顆(MC)の幅が狭いと、歩行中の脛骨の内外旋が増加することが確認されました(回帰係数: −0.30, p = 0.03)。
2. 前後方向の移動:
• 大腿骨外顆(LC)の屈曲円が小さい場合(−0.16, p = 0.007)、および脛骨内側プラトー(MTP)の深さが深い場合(0.90, p = 0.01)、歩行中の膝関節の外側コンパートメントの前後方向の移動が増加しました。
考察
本研究は、骨形態が膝関節の動きに与える影響を初めて包括的に評価しました。以下の重要な知見が得られました:
• 前十字靭帯(ACL)損傷の予防:
• 骨形態に基づくリスク評価により、ACL再断裂や非接触型損傷のリスクを減少させる可能性があります。
• 特定の骨形態(例: 傾斜の急な脛骨プラトー)を持つ患者は、付加的な外側靭帯再建術が有効である可能性が示唆されました。
• 全膝関節置換術(TKA)の設計改善:
• 個々の骨形態に応じたインプラントのデザインが、術後の関節機能を改善すると考えられます。
臨床的意義
この研究は、膝関節の健康を維持し、損傷リスクを軽減するための個別化アプローチの重要性を強調しています。また、TKAやACL再建術を計画する際に、患者ごとの骨形態を考慮する必要性を支持するエビデンスを提供します。
出典:
Hodel, S. et al., Influence of Bone Morphology on In Vivo Tibio-Femoral Kinematics in Healthy Knees during Gait Activities, Journal of Clinical Medicine, 2022.