「頚性頭痛と頚椎姿勢の関連性を徹底解剖:治療に活かせる科学的根拠とは?」
頚性頭痛(CGH)と頚椎姿勢に関する調査研究
1. 背景と目的
背景:
頚性頭痛(Cervicogenic Headache, CGH)は、頚椎の機能不全によって引き起こされる二次性頭痛です。臨床の現場では、頚椎姿勢(特に前弯角度や頭部の前方位置)の異常がCGHに関連すると考えられています。しかし、これまでの研究では、姿勢とCGHの関連について一貫性のある結論が得られておらず、その信頼性が課題となっています。
目的:
本研究の目的は、CGH患者と健康な対照群を比較し、頚椎姿勢(特にC2–C7およびC2–C4間の前弯角度とC2棘突起の位置)がCGHに与える影響を評価することです。この研究は、姿勢評価がCGH治療において有用であるかを検討する第一歩と位置づけられます。
2. 研究デザインと方法
デザイン:
• 単盲検比較測定デザインを採用。CGH患者と健康な対照群の頚椎姿勢を、レントゲン画像を用いて比較。
対象者:
• CGH患者群:
• 診断基準: Cervicogenic Headache International Study Group(CHISG)の基準に基づき、以下の条件を満たす患者を対象としました:
1. 側性のある頭痛が週1回以上(2ヶ月間)。
2. 頭痛発生時またはその前後に頚部痛がある。
3. 特定の頚部動作または姿勢によって頭痛が誘発される。
• 除外基準: 両側性頭痛、オーラの存在、外傷歴、または脳卒中や炎症性疾患など。
• 健康な対照群: CGH患者と性別・年齢を一致させた30名。
評価指標:
1. 一般頚椎前弯角(GCL): C2–C7のCobb角を測定。
2. 上部頚椎前弯角(UCL): C2–C4の角度。
3. C2棘突起の水平方向偏位: C2棘突起が正中線からどれだけ偏位しているか(mm)。
測定手法:
• 標準的なレントゲン撮影(側面および正面)を実施。被験者は自然な姿勢を維持するよう指示されました。
• 各測定は、熟練した放射線技師2名がブラインド方式で行い、信頼性を確保しました。
3. 結果
1. 頚椎姿勢における患者群と対照群の比較:
• CGH群と対照群の間で、GCL、UCL、C2棘突起偏位のいずれにも統計的有意差は見られませんでした。
測定項目 CGH群平均値 (SD) 対照群平均値 (SD) P値
GCL (C2–C7角度) 10.97° (7.50) 7.17° (5.69) 0.06
UCL (C2–C4角度) 11.86° (6.46) 9.44° (4.28) 0.10
C2棘突起偏位 (mm) 3.00mm (1.66) 2.86mm (2.04) 0.77
2. GCLとCGHの関連性:
• GCLの増加とCGH発生確率に統計的関連性が確認されました(オッズ比1.08, P=0.042)。これは、GCLが1度増加するごとにCGH発生リスクが約8%増加することを示しています。
4. 考察
結果の解釈:
• CGH患者と健康な被験者の間で、頚椎姿勢そのもの(GCL、UCL、C2偏位)には大きな差は見られませんでした。ただし、GCLがCGH発生リスクに寄与している可能性が示されました。
• UCLやC2棘突起偏位については、CGHとの関連性が見られないことから、上部頚椎特有の姿勢異常ではなく、全体的な頚椎前弯が重要な要因である可能性があります。
臨床的意義:
1. GCL評価の有用性: CGH患者の評価において、GCLの測定は補助的なツールとして活用可能。
2. 姿勢矯正の限界: 姿勢そのものよりも、筋機能(特に上部頚椎屈筋)の改善が症状軽減に寄与する可能性。
理論的背景:
• CGHは頚部の筋肉機能不全と関連している可能性が高く、GCLの増加は深部屈筋の弱化や過剰な筋緊張を反映しているかもしれません。
5. 制限事項
• 因果関係の不明確さ: 本研究は関連性を示したものであり、GCLの増加がCGHの原因であるかどうかは特定できていません。
• 症状の有無: CGH症状が発生している状態で姿勢を評価したわけではないため、結果の解釈には注意が必要です。
• 被験者バイアス: 研究参加者は広告を通じて募集されたため、臨床的背景が異なる可能性があります。
6. 今後の研究課題
1. 介入研究: 姿勢矯正や筋トレーニングがCGHに及ぼす影響を検証する研究が求められます。
2. 他因子との統合分析: 心理社会的要因や運動機能障害との関連性を評価する多角的研究が必要です。
3. 他の頭痛タイプとの比較: 緊張型頭痛や片頭痛との違いを明らかにすることで、診断精度向上に寄与する可能性があります。
7. 結論
• CGH患者における頚椎姿勢は、健康な被験者と大きな差はありませんが、GCL(頚椎前弯角)の増加はCGH発生確率と関連しています。
• 臨床では、GCLの評価を行いつつも、単独の指標として利用するのではなく、筋機能や症状との関連性を考慮した包括的アプローチが必要です。
引用元:
Farmer PK, Snodgrass SJ, Buxton AJ, Rivett DA. An investigation of cervical spinal posture in cervicogenic headache. Physical Therapy. 2015;95(2):212–222.