ボルコイは風呂釜に嵌った【掌編小説】
ボルコイは風呂釜に嵌った。
ボルコイは風呂釜に嵌って、一向に身動きができなかったので、腕を振り回して身を捩った。しかしボルコイのお尻は風呂釜に嵌ってゆくばかり。
ボルコイは腕を振り回して、水面をチャパチャパ叩いた。しかしボルコイのお尻は風呂釜に嵌ってゆくばかり。
ボルコイは腕を振り回して、おうい、おういと叫び散らした。しかしボルコイのお尻は風呂釜に嵌ってゆくばかり。
ボルコイはしばらくそうしていて、あるとき、ふと、まあ、それならそれで構わないか、と思った。
ボルコイはなんだか一息にばからしくなって、腕を振り回すのをやめてしまった。
ボルコイが窓の外に目を向けると、ちょうど上空を飛行船が行くのが見える。
ボルコイは飛行船を眺めていることに決めた。
ボルコイはずっと、飛行船が行くのを眺めていた。
夕方になるとボルコイは市場に出かけて行って、パンと干した果物を買い、歯を磨いてぐっすりと眠った。
【主な関連資料】
ダニイル・ハルムス(2023)『ハルムスの世界』(増本浩子&ヴァレリー・グレチュコ 訳)白水社
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