2023.11.25研究会を開催しました
会場参加5名とオンライン参加7名での開催となりました。今回の発表者は3名でした。
以下にその内容を掲載します(発表順)。
◆企業内サーバント・リーダー育成の取り組み / 濱田 佳代子
◆ジェンダー・ハラスメントを防止する新しい方略
「まんま見ーや」(CCT:認知的複雑性研修)の効果 / 小林 敦子
社会の課題:差別、偏見、ハラスメントを解消するためのよい方法はないか?
私たちは「相手を性別で差別しないようにしましょう」と言われたら、多くの場合、一旦、相手の性別を思い浮かべ、次にそれについて考えないようにしようとします。つまり、性別について偏見を持たないようにするために、相手の性別を思い浮かべる必要があるのです。例えていうなら、お化けが怖いのでお化けのことを考えないようにするようなもので、してはいけないことをしないように促すことは難しいといえます。
また、日本では、性差別、ジェンダーといった語に抵抗を持ち、ジェンダー平等に関する研修の受講に後ろ向きの人が多いため、ジェンダー・ハラスメント防止を促す研修は一定程度の効果が確認されているものの、課題もあるといえます(小林, 2015)。
そこで、ジェンダー・ハラスメント防止のために、その行為をしないように促すのではなく、物事をありのままに多面的に見る力の醸成によって、結果的に差別解消に導く方法を考案しました。この発表では、ジェンダーにまつわる差別防止のために、ジェンダーという語を用いない戦略的な研修(まんま見―や)の効果について、検討を重ねた結果の一部を報告しました。
物事をありのままに多面的に見る力(まんま見る力)の醸成
「まんま見る力」は、心理学の領域では認知的複雑性(Cognitive Complexity; Bieri, 1955)という概念で検討され、複雑なものを複雑に捉える個人の能力と定義されています。そして、いくつかの研究により、認知的複雑性とジェンダー・ハラスメントの原因となるステレオタイプとの関連が示されています(e.g., Ben-Ari, Kedem, &Levy-Weiner ,1992; 山本・岡, 2016)、Kobayashi & Tanaka (2022) では、先行研究の知見から、認知的複雑性が高まれば潜在的ステレオタイプが弱まり、ジェンダー・ハラスメントが抑止されると考えました。そして、認知的複雑性研修(CCT)を実施して研修前後、事後のデータを比較し、研修の有効性を示しました。この結果は、ジェンダーに基づく差別の防止には、ジェンダー、性差別という語や説明が必ずしも必要ではないことを示しています。さらに、個人のまんま見る力の醸成は、あらゆる差別や偏見防止へつながることが期待されます。
掲載された論文はこちらからご覧になれます。↓
Cognitive Complexity Training Reduced Gender Harassment in a Small Japanese Company1, 2 - Kobayashi - Japanese Psychological Research - Wiley Online Library
問い合わせ先 toiawase.cct@gmail.com
この研修(まんま見ーや)の内容は、次の書籍にて公開しています。実際に使用するワークシートや研修の手順を掲載しています。
実際に研修を受けた出版社の記事はこちらから↓
社員9名の出版社がハラスメント対策研修を実際に受けてみた|前編|現代書館 (note.com)
◆色彩に関する心理学の実践 / 稲葉 隆
色彩を対象とする学術分野は幅広く、同様に色彩を扱うビジネス・産業・社会も多岐にわたる。そのため、色彩に関する心理学の実践的な課題も数多く存在する。今回は、色彩嗜好に関する心理学的な研究のひとつを紹介し、その成果が色彩計画に寄与する可能性(ビジネス実践)を述べた。
研究目的は多色配色嗜好における性・年齢・時代(調査時期)の影響について、集団の配色選択パターンに着目して検討することであった。30種類の5色配色を提示した嗜好色調査は、2009年から2022年までの間にWeb調査方式で15回おこなわれた。対象者は18才から69才までの男女で、総合計16、560名だった。分析は、性(2区分)×年齢(学生から60代までの6区分)×調査年月(15区分)で分けた計180集団の配色選択率を対象とした。先ず、因子分析により配色嗜好要因を求めると4つの因子が抽出でき、その特徴から明瞭性・自然性・親近性・重厚性と解釈した。次に、階層クラスター分析によって配色選択パターンの類似性から20クラスターに分類した。その結果、配色嗜好における性差の大きさが顕著に示され、さらに男女それぞれで年齢と調査年代によらないある程度一貫性がある配色嗜好パターンが存在することがわかった。一方、女性では年齢が若いほど配色嗜好に多様性がみられ、年齢が上がるにつれて徐々に嗜好が収れんしていくことが示唆された。そして、女性の若い年齢層などでは3~5年ごとに嗜好性が変動する可能性が考えられ、その方向性として配色嗜好要因の明瞭性と親近性が低下する傾向が認められた。以上の結果は、様々な製品・サービスの色彩計画において、性・年代・時代の影響を検討する際の根拠となるであろう。なお、この発表は、日本色彩学会第54回全国大会(2023年6月)において発表した研究内容を基にした。
また、この話題提供ではもう一つのテーマとして、心理学の実践・社会実装において研究成果をいかにわかりやすく伝えるかという普及・教育の方法の重要性についても検討事項として挙げた。一例として、色彩研究の成果を現代イラストを例にとって解説した試み(『配色のヒミツ』(2022)、『配色で生み出す物語』(2023)、いずれも玄光社刊)を紹介した。