力学的に減速しない走りは可能か?

接地において減速しないランニングは力学的に可能かどうか考えてみる。

まずはこの問題を考える上での力学モデルについて考えてみよう。走運動について左右成分を無視して、進行方向と垂直方向という2種類の軸のみを考える。ここで減速しない走りというのは接地において進行方向の力が働かないということになる。これが実現するのは、垂直方向の力しか働かない場合で、重心の垂直方向の直線上以外に力点があってはならない。つまり、着地をした時に重心の真下で体重を支えた時になる。ところで重心の真下のみで体重を支えるということは現実的に可能なのだろうか?接地点が一つの点であるとするなら、その点の上を重心は一瞬で通り過ぎてしまうので不可能だろう。しかし、実際には足は一点でなく一定の長さが存在する。簡単のため踵接地で考えた場合、足の上に重心が通っている間は足の上に重心があると考えることができる。このような動きがどれくらい現実的なのだろうか?

実際に数値で計算してみることにする。ここで足の長さを0.25m(25cm)とする。(現実的には足の端っこの方でそんなに大きな力を掛けられない気がするので20cmくらいにしたほうが妥当な気もするが少しでも可能性が生じるような解が出てほしいということで少し大きめの値を採用する。)
1キロ5分で走る時(個人的なジョグのスピード)では
0.25(m) / (1000(m) / 300(sec)) = 0.075(sec) = 75(ms)
という風に計算すると75(ms)というGCT (Ground Contact Time)という値になる。また、1キロ4分、3分で走る時はそれぞれ
0.25(m) / (1000(m) / 240(sec)) = 0.06(sec) = 60(ms)
0.25(m) / (1000(m) / 180(sec)) = 0.045(sec) = 45(ms)
となる。うーむ流石に短い。
ちなみに参考までIneos 1:59 Challengeの時のEliud KipchogeのGCTの値は110-130(ms)だったらしい。また、IAAF World Challenge Zagreb 2011にてUsain Boltが9.85(sec)で走った時のGCTの値は86(ms)だったらしい。

これらのGCTに必要な垂直反力を計算してみる。知っている限り最大のケイデンスは240なのでそれを採用してみる。(谷口浩美:1991世界選手権東京でのマラソン)また、接地している間は等しく、垂直反力がかかっていると仮定する。このとき、キロ5分で必要な垂直反力は
1 / (0.075 * 240 / 60) = 3.33...となるので最低でも体重の3.3倍となる。
キロ4分、3分で走る時はそれぞれ
1 / (0.06 * 240 / 60) = 4.16...
1 / (0.45 * 240 / 60) = 5.55...
となり、4.2倍、5.6倍となる。
ちなみに、上記の大会時のUsain Boltの垂直反力の値は体重の4.2倍だったらしい。

これらの数字を見た上で接地において減速しないランニングを目指すかどうかはあなた次第!!!
まあ完全に減速無しで着地することは現実的には難しくても、より重心の真下に近い場所で着地をすることでより加減速の少ない走りができる筈!

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