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教育予算拡充なければ国の将来ない 受田浩之・高知大学長
受田浩之・高知大学学長に授業料無償化と大学運営費交付金の現状を聞きました。(聞き手・中田宏)
学費無償化
-4月から東大が標準額(※)の上限一杯の2割引き上げることになった。
学長は無償であるべきと発信しているが、現状をどうみているか。
受田 東大の値上げ、慶応大塾長の「国立も150万円にしたら」という発
言が、国立大学授業料について国民の関心を集めたが、各大学で上げる上げないという話と同時に、標準額を上げるべきという議論が国立大学長からも聞かれる。標準額が上がれば一律で上げられる。ある意味「護送船団」的な発想。
私は授業料無償化をしなければ中教審が言う「知の総和」を上げることに繋
がらないという思いを非常に強く持っている。「知の総和」を上げるには大学進学率と同時に、大学院進学率も引き上げ、修士・博士養成がOECDと比べ明らかに少ない状況を抜本的に改善しなければならない。これは国の目指すべき方向であり、人材立国には絶対的に必要だ。2020年から住民税非課税世帯への大学修学支援制度が始まり、対象世帯の進学率が40%台から69%に上がったという数字がある。専門学校も含まれるが、明らかに可能性の平等という意味で奏功している。授業料を無償化すれば国民の進学、高等教育機関で教育を受ける権利がしっかり確保され、可能性の平等が担保される。
高知県は県民所得が東京に比べ3割低い。大学進学を希望する場合の環境
を、より整えていくべきだ。また東京都立大や大阪公立大が授業料を都民・府民になることを要件に無償化しようとしているが、一極集中改善どころか、より悪化させる。自治体の財政基盤の格差にもとづく政策であり、非常に問題がある。
国の未来を考えるなら大学無償化に舵を切らなければならないと私はずっと
言っている。難しいことは分かるが、国民世論として未来への投資として考えてもらう。他の予算を削減してでも教育予算に向けていくべきではないかと思う。
大学運営費交付金 これでは破綻しかねない
-一方で大学の経営は厳しさを増している。
受田 授業料無償化は大学運営費交付金の拡充があっての話であり、それぞ
れ強化していかなければならないと、ずっと主張しているが、残念ながら交付金拡充も昨年の総選挙で自民党も含め公約に入っていたが実現していな
い。来年度の予算も我々からみるとまったく不十分で、減らされてはいないが完全に肩透かしだ。
このままいくと国立大は2025年度に、ほとんど破綻しかねない。経営的
に立ち行かない状態に入っている。国大協が「もう限界」と言った去年6月を超えたイメージ。仕切り直して次の「骨太の方針」に盛り込めんでも26年度予算に入るかどうかという話で、25年度は経営的に暗礁に乗り上げるくらい厳しい。ここをどう埋めるのかという危機感がある。
-大学運営の厳しさを改めて認識した。
受田 学長になって1年弱、国大協の議論も末席から拝聴しているが堂々巡
り、閉塞感で一杯だ。このままいくと国立大が立ち行かなくなる。一番悲しいのは授業料無償化、運営費交付金拡充の見通しが立たないこと。誰も責任を持てない状況で国の舵取りがされているとしか思えない。
国会で「地方創生2・0」が話題になり、地方大学も取り上げられるだろう
が、防衛予算を23兆円にすると言ったように、本気で「文教予算をこれだけにしましょう」という大きな方針までいくのか。それがなければ国の将来はない。
授業料無償化は、今は高校の議論になっているので、それが終わらないと大学の話にはならないだろう。ありうるシナリオは大学の修学支援の上限を上げていき、それが無制限になれば全員ということになる。そこは推移を見守っていく。
問題は運営費交付金で、あと3年は増えないとすると、外部資金を獲得して
運営に充てていくしかない。大学として先行投資できる部分、未来への投資はやっていこうと思っている。研究成果も海草や海に関連する研究は大きな成果を生み出し、社会的に成果をあげているので、受益者からのリターンは考えていかなければならない。我々が貢献した部分の価値を認めてもらって、貪欲に大学運営に支援いただけるようにしていきたい。(2025年2月9日 高知民報)
※現在は53万5800円。大学の判断で2割まで増額できる。
写真はインタビューに答える受田学長