「アリスとテレスのまぼろし工場」は岡田麿里版「ほしのこえ」
今更だけど、映画「アリスとテレスのまぼろし工場」の感想を語りたい。
一言で言えば、岡田麿里の原液をぶっかけられたような作品だった。
個人的には、あまり見たことのない展開、というか、メッセージを感じる作品でかなり面白かったが、ネットの感想などを見ると賛否両論のように思われる。
もっといえば、あんまりヒットしなかったようにも見える。まぁさもありなんという映画だったが。
ものすごく主観の入った解釈をさせてもらうのであれば、見たくもない両親のなれそめを見された挙句に、寝取られというか、かなり消化しにくい失恋体験をさせられる映画なのだから大衆受けはするはずがないとは思う。
まぁ、そういうところ、つまりヒロインである睦実が「母」でありながら、「女」でもある、という両面をきちんと?「娘」であり、「恋敵」?でもある五実に突き付けるというところが個人的にはとても面白かった。
ラストの二人の対話のシーンだけでも見る価値はある作品になっていると思う。
いや、めちゃくちゃ気持ち悪いとも思うけども。なんていうか、エンタメ作品としてはどう受け止めていいのかわからないんだよな。はっきり言って「母親」の「女」としての情念の部分なんか見たくないし、それで金取るのかよ、という気持ちになる。
ただ、その分余計なコーティングがされていない作り手の「核」に近いところが見えるようで面白いとは思った。いやそれすらも計算かもしれないけど。
あと、個人的には「佐上衛」がけっこういいキャラをしていて好きだった。
同性愛者かどうかまではわからないけど、菊入昭宗(主人公の父親)に対する重たい感情が見え隠れするのが、面白かった。
ここから完全に妄想なので読み飛ばして欲しいのだけど、多分、睦実は実の父から性的な暴力か、本人の「主観」としてはそれに類することを受けていたんじゃないかな、と見ながら思っていた。
そう考えた方が、正宗が五実に「女性」を感じたときに、激しく嫌悪するところや、そもそも女の子に似ている正宗に興味を持つことに納得感があると思ったからだ。
あと、睦実の佐上衛に対する態度が好意的、とはとても言えないが、ものすごく拒絶感を露わにするほどでない(私にはそう見えた)のは、この「男」は私を「女性」として見ないな、というある種の信用から来ている考えると面白いなと思った。いや、作中ではそんなことは言われていないけど。
しかし、一見デートムービーのように見える映画のくせに「性」の問題を突き付けられているような気分になる映画だった。付き合いたてのカップルとが、「君の名は」みたいなものを求めていくとわりと後悔しそう。「君の名は」だったら「よくわかんないけど、最後に二人が会えてよかったね」で充分楽しい気分で帰れるけど、これはどういう気分で帰ったらいいのか悩む映画だからな。
ただ売り上げは脇において、作者のメッセージというか、メッセージ以前の衝動、人に伝えやすくコーティングする前の「思い」を感じることができて面白かった。やたらと詰め込まれている設定や、若干胃もたれがするくらい濃厚なキスシーンなど、ある意味では同人作品みたいな作りを感じるところも多かったと思う。
新海誠の「君の名は」を大衆に受けるような工夫もしながら、自身のこだわりも詰め込んだハイクオリティーなデートムービーだと思う。それと比べkるとこちらは美麗な映像と作品にマッチした楽曲という意味では「君の名は」になれた逸材だったが、如何せんクセが強すぎた。ただ「すごい」ものを見たな、という感覚にはなれた作品だった。
新海誠も「ほしのこえ」を二時間くらいで今リメイクしたら、こんな感じの映画になるんだろうか。
あまり周りでは評判にならなかった映画だが、「アリスとテレスのまぼろし工場」はすごい作品だったと思う。