飛行機
その会社は、年度始めに全国の管理職を集め経営会議を行う。
経営会議では、前年度の予算達成状況と最優秀所管と最優秀営業社員の表彰が行われ、その後、新年度の経営計画が発表され、各部署に営業予算が示達される。
最優秀社員は表彰のあと壇上でスピーチをすることが恒例になっている。
「この度は名誉ある賞をいただいたありがとうございます」
「この成績は、私一人の力で出来たものではありません。こんな私を見放すことなく我慢強く見守ってくれたた所属長、適切に指導してくださり、影に日向にフォローしていただいた諸先輩の方々のおかげだと思っております」
「本当にありがとうございました。」
「そして何よりも、中途入社した時、営業未経験の私に所属長が話してくれた『飛行機のはなし』が、今回の成果に繋がったと思っています。」
『飛行機が離陸する時の推進力は、上空に飛んでいる時の6倍の力が必要だと言われています。』
『あなたは今、滑走路を走っています。1日も早く、上空を飛んでいる先輩たちに、追いつき追い越してもらいたいと思っています。』
『今の先輩たちと同じ努力では、あなたは空を飛ぶことは出来ません。いつまでも滑走路をぐるぐる回っているだけです。』
『先輩の6倍の努力をして初めて、離陸することができ、上空を並んで飛行出来るのです』
『一度離陸してしまえば、6倍の努力は必要ないのです。だから今、必死になって頑張って下さい』
『上空からの眺めはとてもいいものだよ』
「今、この壇上から素晴らしい景色を見ることができました。ありがとうございます。」彼女は拍手に包まれて頭を丁寧に下げ、壇上を降りた。
ボクは、ちょっぴり誇らしかった。
立派な営業マンになれたね。部下ができたら同じように指導してあげてください。
でも、ごめんなさい。『飛行機のはなし』は、心を込めて話したけど、全てボクの作りばなしです。離陸の時に、かなりパワーがいるのだろうなぁ、と感じて思いついただけ。
6倍の数字もホントっぽくて良いかなと。
このことは、彼女には話さないでおこう。
その気持ちのまま、今年度も頑張れるように。