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ボクのヒロシマ

人類史上初めて原子爆弾を落とされた広島は、終戦の8年前に6男として生まれた親父の故郷であり、多くの先祖や兄弟と一緒にいる青山でもありました。

親父の生まれは、広島駅からJR呉線を瀬戸内海沿岸を東に25キロほど走った帝国海軍の拠点だった呉市にあります。

呉で育った親父は戦争で多くの親族を亡くしましたが、本人は戦火の中を何とか無事に生きたため、今ボクはこのエッセイが書けています。

終戦後、米兵が艦上から撒き餌のように食品缶詰を海に投げ込み、それを泳いで拾いにくる子どもたちに面白半分に銃を向けていたそうです。

親父が鬼籍に入ってから、夏になるとお墓参りに広島に行くのが毎年の追悼行事になりました。

暗く窮屈だった月日のウサを晴らすように鳴き叫ぶアブラゼミや、すぐに乾いて無くなってしまう夕立の水溜まりに、必死に打ち付けるように産卵するギンヤンマ。
そんな彼らに命の儚さを感じながら、川沿いに車を走らせ親父に会いに行きます。

老いを重ね、土地を離れた親族からは、とても有難がられるこの追悼行事は、ご先祖様の供養という大名目の裏に、私の密かな広島グルメツアーという大本命がありました。

毎年、平和記念公園にほど近い紙屋町のホテルに宿をとり、夜の街に繰り出します。
広島といえば、お好み焼きやあなごめし、ちょっとB級ではホルモンの天ぷらなどが有名ですが、呑兵衛おっさんのいぶくろを満たすものは、やはり食事ではなく酒の肴。
大人の海のミルク、牡蠣でしょう。

広島県は牡蠣の養殖生産量はダントツの日本一で全国シェアは60%以上。

広島の牡蠣は、旬の冬だけでなく夏ガキもぷりっと大振りで、ポン酢やすだち、薬味なしでも、海水の塩分だけでとても美味しくいただけます。
ここは、東広島の「亀齢」で流し込んで昇天しましょう。

次に呑兵衛おっさんのいぶくろを満たす肴は、呉の肉じゃがです。「くれ肉じゃがの会」という団体もあるほど。
戦時中の海軍そのままのレシピで、メークイン、牛肉、糸こんにゃく、玉ねぎといたってシンプル。
こちらは、呉の「千福」。ワンカップでも売られていて一気に大衆感満載の酒場飲みとなります。
ダークダックスの「千福一杯いかがです♪」のCMのアレです。

生きている者の都合で墓仕舞いをし、親父を東京に連れて帰ったため、広島への足が遠のいたということは、グルメツアーは名目であり大本命はお墓参りだったのかも知れません。

*青山:(せいざん)、骨を埋める場所、墓
*鬼籍:死んだ人の名簿に名を連ねること。人が亡くなったこと
*海のミルク:牡蠣の別名。身が乳白色であることと、牛乳のようにバランスよく栄養を含んでいるため
*牡蠣の養殖生産量:2位は宮城県、3位は岡山県





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