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2021年「ウィリーズ・ワンダーランド」
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公開 2021年
監督 ケヴィン・ルイス
公開当時 ニコラス・ケイジ(57歳)
ネタバレありです。
ニコラス・ケイジ×低予算B級アメリカン・ホラーという奇妙なマッチングが気になって視聴しましたが、良い意味で予想を裏切る内容でした。
簡単に説明するならば、ニコラス・ケイジが脈々と継承されてきたB級アメリカンホラーのお約束を拳で全否定するお話とでも言うべきでしょうか。
2000年代に「ザ・ロック」「コン・エアー」「ナショナル・トレジャー」など、中身スカスカのB級ハリウッド超大作に立て続けに主演してきたニコラ・スケイジの、20年にわたるキャリアの集大成とでも言うべき作品です。
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アメリカの片田舎ベイズビルにある閉館した娯楽施設。
園内のアニマトロにクスには、殺人鬼ジェリーの怨霊が宿り、訪れる人間を次々と血祭りにあげる恐怖のテーマパークと化していた…
ニコラス・ケイジ演じる主人公の“男”には役名が無く、セリフも一言もありません。
車のバックミラーに、軍用のネームタグがぶら下がっていたところを見ると、元軍人という設定なのかもしれませんが、そんな説明など不要、“男”はニコラス・ケイジ本人という事で問題無いと思います。
車のタイヤがパンクし立往生している“男”の前に、ベイズビルで車の修理工場を営むジェドが通りかかり、車の修理代の代わりに廃墟同然の娯楽施設「ウィリーズ・ワンダーランド」に一晩泊まり、館内を清掃してくれれば、そこのオーナーであるテックスが修理代を肩代わりしてくれると持ち掛ける。
「きちんと休憩をとれよ。無理をしないことが肝心だ…」
男を残し、外側から厳重に鍵を掛け施設を去るテックス。
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「ウィリーズ・ワンダーランド」のロゴの入ったTシャツに着替え、異常なまでのストイックさで掃除を始める“男”。
と、突然 施設に残された禍々しいアニマトロにクスのキャラクター、ダチョウのオジーが男に襲い掛かる。
男は動じることなく、オジーをボッコボコに殴り倒し、残骸をゴミ袋に詰める。
低予算映画にも関わらず最新鋭のアニマトロニクスを駆使しているのか、マスコットキャラクターはまるで人間が着ぐるみを着ているかのように動きがなめらかなのです。
そこから先は“男”が 掃除をする→アラームが鳴り休憩を取る→「PUNCH」という名のファンタ・グレープのような紫色の缶入り飲料を飲む→ピンボールに興じる→時々霊憑きマスコットキャラクターと戦う のループになります。
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若者5人組が施設に侵入する。
「ウィリーズ・ワンダーランド」にまつわる禍々しい都市伝説の元、マスコットキャラクターによって一人ずつ殺害されて行く若者たち。
ビッチな金髪ギャルのお色気シーンなどアメリカンホラーのお約束が一通り披露されますが、“男”は彼らなどまるで視界に入っていないかのごとく、徹底してマイペースなのです。
ガチガチに固まったおっさんのルーティンの前では、悪霊の呪いなど無力に等しいということでしょうか。
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ニコラス・ケイジがノリノリでピンボールに興じるシーンは、思わず爆笑してしまいました。
このシーンの「おかしみ」を言葉で説明するのは非常に難しいと言えます。
午後のロードショーなどでニコラス・ケイジの映画を嫌というほど見てきた私のようなファンと、ニコケイとの間の共犯意識が介在するためかもしれません。
ともかく、本人は完全に「わかって」やっていますね。
ラスボス、イタチのウィリーをフルボッコするニコケイからは
「深く考えるな! 映画なんてこれでいいんだ!」という心の叫びが聞こえてきそうです。
“男”は翌朝施設を訪れたテックスから車のキーを受け取り、事も無げに施設を去る。
隅々まで清掃された館内を見てテックスは
「あいつは、男の中の男だ…」
これには激しく同意せざるを得ません。
“男”によってマスコットキャラクターらは破壊され、「ウィリーズ・ワンダーランド」の呪われた都市伝説も幕を降ろす。
最初から腕っぷしの強い男を送り込んでいれば、と考えるのは野暮というものですね。
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ニコラス・ケイジは高級車やマーベルコミックスグッズなどの収集が趣味でかなりの浪費家であり、借金返済のため仕事を選ばず、年に何本もオファーを受けていたようですが、近年では本作のような小品ながら尖った秀作が多く、50代に入り新境地を開いた感があります。
やはり彼は正義のヒーローより、クセのあるおっさんの役が似合いますね。
ニコケイ・リテラシーの低い人が見たら「何すかこれ?」となってしまう作品かもしれませんが、彼でなければ成立しない作品であったことは確かです。
間違いなく監督も、ニコケイの大ファンでしょうね。
見終わった後、何故か掃除をしたくなる作品です。