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ねむみ 11
「うわっ!!先生!!」
いつの間に帰ってきたのか、僕の席の目の前に京子先生が恐ろしい顔をして立っていた。スマホの画面を暗くしたのは、どうやら先生の影だったらしい。
「授業中ですよ。」
「すみません…。」
「没収しておきます。」
短いやりとりのあと、僕のスマホは没収された。おそらく一週間は返してもらえない。くそーー!!授業中にスマホをつついている奴らなんていくらでもいるのに、どうしてよりによって僕だけ!!自分に対して非常に歯がゆい。どうしてもっと上手に隠しながらいじるとか、うまく誤魔化すとかできないのか。また変に目立ってしまった。
「時間が来たので授業を終わります。」
京子先生が言い終わるのとほぼ同時にチャイムが鳴った。ふう。やっと授業が終わった。そしてねむみとの悲壮な闘いも終わった。長い長い五十分だった。しかし、僕は闘いに必死でほとんどノートをとっていない。仕方がない。スマホで黒板の写真を撮って家に帰ってからゆっくり見返すことに……っておい、まてよ、僕今スマホ持ってねえじゃねえか。さっき没収くらったばっかりだ。やばい。これは二限目が始まるまでの十分間の休憩時間のうちに大急ぎで書き写さねばならない。しかも当番の奴が消してしまう前にだ。時間がない。僕は慌ててシャーペンを持ち、無我夢中で黒板に書かれた文字をノートに書きとり始めた。この追い込まれた状況で、ねむみなんて僕には無縁だ。奴にはさんざん苦しめられたのに、授業が終わった途端にこんなに頭が冴えるなんて皮肉なことだ。しかしとにかく時間がないのだ。
すると、きゃいきゃいと高い声を響かせて隣のクラスの女子が数人教室に入ってきた。…え?なんで?またそれと同時にうちのクラスの男子たちは体操着袋を片手に教室を出ていく。あ!そうだ!次の時間、体育だ!!体育は二クラス合同の男女別で行うことになっており、この教室が女子、隣の教室が男子の更衣室となる。続々と女子が増え、男子が減っていく教室。やばいぞやばいぞ。僕はとうとうたった一人取り残された男になってしまい、パニックを起こしていた。早くここから出ないと女子たちから変態呼ばわりされる。かといって世界史の板書を諦めるわけには…。二限目が始まるまであと七分…。黒板は当番の女の子によって消され始めている。教室の端のほうで一人の女の子が着替え始めた。僕の存在に気づいてないのか!?まずいぞまずいぞ。ああ…もう…超ヤバみ。まじつらみ(;_;)
(完)