ねむみ 7
ほぼ全身に刺激を与え終わり、体がだいぶほくほくとしてきた時、僕はあることを思い出した。それは、「眠気覚ましのツボ」のことだ。何年か前に本で読んだことがある。確か、手の甲の、親指の付け根と人差し指の付け根の間あたりじゃなかったろうか。「勉強中に眠たくなったら、ここを押してみよう!」というような、おおかたそんなノリで書いてあったように思う。中途半端な僕でも、こういった類の「勉強法」や「勉強の裏技」に関する読み物は、意外とチェックしているのだ。試せるものは何でも試す。ねむみに襲われがけっぷちに立たされた、現在の僕のスローガンだ。左手の親指で、右手の甲の「ねむみ撃退のツボ」を刺激する。ちょっと痛いくらいが丁度良いかもしれない。ぐぐぐっと力を込めて――。
はっ。寝ていた。僕今確かに寝ていた。意識を失っていた。すると、今までの僕の涙ぐましい奮闘は、全て夢だったというのか。いや違う。夢じゃない。机の上では、僕の左手の親指が、右手の甲の上に置かれていた。夢じゃない。ツボ押しをしたところまでは、確実に起きていたのだ。黒板上の時計によると、僕が寝ていたのは五分にも満たない。二、三分、いや、一分程度かもしれない。あろうことか、僕は「ねむみ撃退のツボ」を押しながら、一分程度の居眠りをしていたのだ。あの本、信用ならないじゃねえか。あのツボを紹介していた本の出版社にクレームをつけ、会社を相手取って裁判を起こしてやろうか。非常に歯がゆい思いでいっぱいだ。授業は残り約十五分。もうここまで来たらいっそのこと寝てしまおうかとも考えたけれど、それではこれまで約三十五分間の血のにじむような努力の甲斐があまりになさすぎる。こうなったらもう授業終わりのチャイムが鳴る瞬間まで闘い続けるしかない。僕はまた別の方法を考え始めた。
(続)
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