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いびき

蛇腹状のカーテンの向こう側から聞こえるいびきに、安心感を覚える日が来るとは思わなかった。
息をしている。それがわかるだけで、喉元を締め付ける不安感は落ち着きを取り戻している。

熱があるらしい。38度を超えているらしい。
人は、高熱を出すと細胞がいくつも死に行き、神経や臓器を破壊していくのだと、どこかで聞いた覚えがある。
脳みそは無事だろうか。その脳みそ自体にも、未だ不確実な異物の影があるというのだから、心配する側も、何をどう心配してやったら良いのか分からないでいる。

いよいよ状況が悪いと言い出したのが今日の夕方で、じゃあ明日にでも病院に行くべきだと言う以外の選択肢がわからず、さらには明日は土曜日で、さらに次の日は日曜日なわけだから、状態を把握しているはずの掛かり付けの病院は3日後にしか行けないわけで、私たちは心底狼狽えた。素人の一般人からしたら為す術無し、と両手両足を地面に付けるような完全敗北の気持ちに加え、先週調子が悪くなって来たからと、もらって来た抗生物質と痛み止めを服用し始めて3日が経つと言うのに、改善される雰囲気は全くないようで、耳の痛みと喉の痛みとで食事が全く出来ないようすに不安は募った。ついには唾も飲み込めず、ティッシュで口を拭う姿に「やばいじゃん!」と言い投げることしか出来なかった。

仕事を終えて家に帰ると、炎症からだろう、熱が酷く、元々不安定だった血圧も150を超えていた。死ぬのか?と、口には出さずとも皆んながそう思っていた。
さっさと布団に入ってもらい、明日明後日はもちろん休んでもらうことしか出来そうにない。
よだれも飲み込めない状態で、夜中に窒息しないだろうか。
高熱にうなされ、脳みそがおかしくなり、高血圧と何かがどうにかなってプッツリ行ってしまわないだろうか。
時折聞こえる大きないびきも、息をしている証拠ではあるが、無呼吸症候群の一部だとしたらこのいびきが聞こえなくなった時が終わりの時になってしまわないだろうか。
部屋の中をフラフラと視線を回し、どこを見るわけでもないが、睡魔は今夜ばかりはやって来そうにない。もしかしたら明日も来ないかもしれない。
忙しい土日には早く過ぎて欲しいが、とにかくこの不安を何処かに落ち着ける棲家を月曜日には用意してもらわねばならない。

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