分かりにくい女、そして分かりやすい男【9分小説】
「ここでいいんだよね?」
ハンドルを握った女が訊ねてきて、ぼくは「うん」と肯いた。車がハザードランプを点滅させて道路の脇に停まる。
「ありがとう」
そう言って助手席から車を降り、「じゃ、また」と女に声をかけドアを閉めると、車は人気のない夜道を忍ぶようにして走り去って行った。ぼんやりと光るテールランプを見つめながら、ひとつ大きな息をつく。体は疲れているが、心は満たされている。ただし、決して清々しいものではない。湧きあがる罪悪感を影のように引きずり、自宅のあるタワーマンション