大海を知ることなき魚たちの小さな群れ(夢日記)
夏祭りの雑踏を、物売りの喧騒にまみれて、
紅い旗袍を着た少女が、人の群れを縫うように歩いていく
りんご飴の甘い香り、葱餅の焼ける油の匂い、裸電球の光が大海を知ることなき魚たちの群れを照らしている
ぼくは母を探していた。いまだ逢ったことのない母の姿を。
長いつり橋を渡り坂を下ると、青く澄んだ河辺があり、そのほとりに上宮が鎮座していた。宮の広間には、お刺身や羊肉やライチやらの御馳走が並べられ、獅子や巫女たちが座して楽しそうに歓談している。
河辺には、あの紅い旗袍の少女が独り座っていた。
「あなたはぼくの母さんを知っていますよね?」ぼくは肩で息をしながら、紅い旗袍の少女に訊ねた。少女は口を開いた。
「那是一百一十年前的事情了,你妈妈是我女校时候的同学,她既聪明又美丽,她还付出自己的生命代价救过人命呢,但她最爱的是你,她永远不会忘记你,永远永远」
〔訳:あれは110年ほど前のこと。あなたの母さんは、私の女学校時代のクラスメートでした。彼女は聡明で美しい人でした。命の危険を顧みず他人の命を救ったこともあった。彼女が愛していたのはあなただった。永遠にあなたを忘れないと言っていたわ。永遠にね〕