北海道が好きになったわけ17
納内町には北海道拓殖短期大学の学生達の住むアパートや寮がたくさんあった。
アパートは食事は自分達で賄い、寮は食事付きでシャワーかお風呂が付いていた。当然、寮の方がお金がかかる。
ほとんどの寮は学生達の栄養面を考えてくれ、満足のいく量を出してくれていたようだったけど、中には「ん?」と思うような食事しか出してくれない寮もあった。
テニス部のカケの住んでいた寮はその中でもメシマズで有名。特に「具なしカレー」は有名だった。今で言うスープカレーのプロトタイプのような、シャバシャバの水っぽいカレーのみで具が何も入っていない。他の料理も似たり寄ったりだったそうで、そこの寮に住む学生達は、結局自分達で弁当を買って栄養補給をしていた。
でもカケは栄養補給をせず、テニスの練習は僕らと一緒にしていたため、日に日に痩せていき、遂には浦茂アパートに遊びに来ていて、力尽きたように倒れた。
「カケ!カケ!大丈夫か!」
「う・・・何か食べたい( ; ; )」
「何でも食わしてやる。何がいい?」
「・・・フ、フ、フルーチェ食べたい・・・」
「え?何が食いたいって?」
「フルーチェ、フルーチェ食べたい( ; ; )」
そこにいた全員で大笑いした後、フルーチェを買いに行った。
僕らのアパートでは各自で食事を用意していたが、毎日テニスの練習で遅くなっていたのと、料理のスキルが無いのと面倒なのとお貧乏なので、米だけ炊いて納豆で済ます事が多かった。
みかねた蓮ちゃんが、ひとり月5千円だったかな?とにかく格安で晩飯のオカズを作ってくれる事になった。蓮ちゃんも「自分の分だけ作るより多人数分一緒に作った方が、自分も安上がりになるので助かるから」と言ってくれたので甘えた。
蓮ちゃんはミニマリストのような生活をしていて、暖房も極力使わずに共同キッチンのガス台で暖をとっていた。仕送りが来ると小麦粉を買って、お好み焼きやほうとう、遂にはパンも作ってしまうくらい料理のスキルが高かった。
そんな蓮ちゃんの料理は本当に美味しくて、みんな助かっていた。ただ、日にちが経つといくらなんでもひとり5000円じゃ足りなかったようで、段々と粗食になってきた。
「今日の晩飯何かな」
「昨日は焼きそばをオカズにご飯だったよな」
「俺、初めて食べた。お好み焼き定食みたいなもん?」
「まぁ、贅沢言っちゃいけないよな」
「あぁ、蓮ちゃんは少ないお金でやりくりしてくれてるからね」
「そういえばさ、今日近所のおっちゃんがとうもろこし持ってきてくれたらしいよ」
「まさか、とうもろこしがオカズってこと無いわな」
「さすがにそれは無いでしょwww」
あった。
焼きそば+米に続き、とうもろこし+米という、ある意味衝撃的な夕飯が続いたけど、僕らのアパートでは誰も倒れなかったから、蓮ちゃんシェフは優秀だったんだろう。
その後、蓮ちゃんは飲食系メーカーに入って今でも頑張ってます。