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慢性骨髄性白血病は完全寛解したけれど  #5 土地を買って家を新築

 当時は、私の親に子どもの面倒を見てもらいつつ、年老いた親の支援も身近でできるように実家から70mの場所で戸建ての借家に住んでいた。病気になる前は妻と「退職後は海に近い暖かい土地で家を建てよう」と夢を語っていたが、実際には実家の土地で家を建て替えるのだろうと思っていた。 

 ところが血液内科で御世話になっている病院は、当時私が住んでいた家から19kmも離れていた。この距離の運転は副作用で体が不自由になっていた私にとって大変だった。最寄りの駅までの道も1.7kmのうち半分近くが急坂路だった。氷雪路の時期でなくても杖をつくような体調で歩ける道ではなく公共交通機関の利用も容易ではなかった。

 このまま一生副作用で苦しむとなると病院の近くに家を確保した方が良いのでは?と思うようになってきた。また、自家用車の運転が難しくなることを想定すると駅やバス停に近い場所への憧れが強くなってきた。そして次第に本屋やインターネットで土地や住宅の情報を探すようになってきていた。

 その頃の私は「死ぬ前に何をしたいか」を考えていた。この「死ぬ」には体が不自由になる意味も含まれている。結婚をして子どもができ幸せな家庭を築くことができた。今は仕事を満足にできなくなったが、これまでの過程では能力以上に価値のある業務をやらせていただけた。十分満足である。 

 やりたくてできなかったこと。「自分は家を建てたことがない。最後に家を建ててみたい。」と強く思うようになってきた。経済的な逼迫は目に見えているのだから借家を探せば良いのに、気持ちはどうしても土地の購入や新築に行ってしまっていた。

 あるとき妻に提案をしてみた。
「人生思い残すことがないように家を建ててみたい。」
もしかすると反対されるかと思っていたのだが、妻は
「いいよ、建てよう。」
とすぐに承諾をしてくれた。

「お金のことよりも良い環境でパパが安心して療養できた方が良いよ。」  と妻は言ってくれた。子どもは高校生で通学距離が長くなるのだが新築に期待を膨らませて承諾してくれた。実家に一人で住む母には嫌がられるだろうと思ったのだが「病気なのだから仕方がない。」と承諾してくれた。

 こうなると話はどんどん進む。私は大きな病気をしているので一般的な住宅ローンを組むことはできない。それでも、これまでの蓄えや退職金の活用などをいろいろと考えて金銭的な計画を練ることにした。そして、住宅メーカーや地元工務店を何社か巡り、最終的に住宅メーカーと契約した。

 土地は病院と駅の間にある場所が良かったのだが、なかなか良い物件が出ないし相場も高かった。別の場所…とも思ったが購入に踏み切れなかった。そんな中、理想的な場所が売りに出た。不動産屋で交渉したが予算オーバーなので手が震えてなかなか印を押せない。すると妻が「いいよ、買おう。」と力強く後押しをしてくれた。私よりも妻の方に度胸があった。

 住宅メーカーや土地が決まると間取りの構想に入った。妻や子ども、将来的に同居する予定の母に希望を聞いて回ったがなかなか決まらない。また、住宅設備関係などで決めなければいけないことも非常に多い。4ヶ月ほど毎週のように夫婦で住宅メーカーの展示場などに行き打合せをしていた。

「新築は打合せがすごく大変ですよ~。」と不動産屋の社長や住宅メーカーの営業から聞かされていたが、これほど大変だとは思わなかった。しかし、自分にとって最後の大仕事だと思うと頑張れた。打合せの大部分が暖かい季節で比較的体調が良く、杖をつかずに歩ける日が多かったのも幸運だった。 

~#6 入院②<タシグナ対応>に続く~

 

 

 

 


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