慢性骨髄性白血病は完全寛解したけれど #4 経済的な逼迫
私の医療費は、高額療養費制度や所得税の還付などを活用しても1年間で600,000円以上かかっていた。しかも、これは還付後の金額なので病院や薬局の会計では自分で請求額を支払う必要がある。入院が複数の月に渡ったケースでは入院費や薬代で一ヶ月に500,000円程度払ったこともある。
もちろん、この金額は私が現役世代として収入を得ているからであり、高齢者などの収入が少ないケースでは幾分か金額は減るだろう。ただ主治医の「一生薬を飲んでもらうんですけれどね。」
という言葉どおりなら、今後の人生で大きな足枷になることは間違いない。
治療を開始した頃は、以前なら亡くなっていた病気で助かることを素直に喜ぶことができていた。しかし、数ヶ月もするとスプリセルの副作用に苦しむ中で一生懸命働いても収入の相当な割合が医療費で消えてしまう徒労感や急激に減っていく貯金通帳の残高に不安感を覚えるようになっていた。
病気になる前はそれほど気にならなかった家族との生活費、職場での様々な出費など…。急にそれらの負担が重くなってきた。特に大きかったのは自家用車である。当時は降雪地帯に住んでいたので11年目になるSUVタイプの4WD車に乗っていた。当然、燃費は悪く維持費も高かった。
杖をつくような体調で大きい自家用車を運転することにも不自由さを感じていた。そこで、一時的に大きな出費となるが今後の経済的な負担を減少させることや運転技能の低下に対応する必要性から、衝突被害軽減ブレーキや全周囲モニターなどを装備した4WDの軽自動車に乗り換えることにした。
妻も私が継続的に支払う医療費の高額さに大変驚いていた。
「パパは医療費が大変だから。」
と言い、これまで以上に生活費や教育費などの負担を請け負ってくれた。とてもありがたく今でも感謝している。ただ、病気で致し方ないとは言え、どうしても自分の甲斐性のなさを感じてしまうのだった。
当時、インターネットで他の慢性骨髄性白血病患者の情報を集めていると「静かな自殺」という言葉が目に入った。本来、慢性骨髄性白血病患者は分子標的薬の服用をやめられないはずなのだが、経済事情でやめてしまう人がいるというのだ。そして、その人は急性転化期を迎え最終的には死に至る。
「自殺はやめてね。」
今でも時々妻から言われる言葉である。我が家では妻の収入があるおかげで直ちに生活が困窮することはなかった。私よりも医療費で生活が困窮している方のことも理解しているつもりであった。それでも、副作用に苦しみ仕事も満足にできず、高額な医療費を払い続ける現実の前では、自分の生きている価値を自問自答してしまうことがあった。
ただ、やはり応援してくれる家族の前で生きることはあきらめられない。ならば一度自分をリセットして考え直そうと思った。例えば高額療養費制度では、収入を減らして限度額を下げた方が収入と支出のバランスを好転できるケースがある。つまり仕事も今の状況がベストというわけではない。治療だけでなく経済的な面からも新たな人生を歩み出す必要性を感じていた。
~#5 土地を買って家を新築に続く~
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