14.「碁盤斬り」加藤正人(著)

 「不得貪勝」己の利だけをむさぼれば勝負に勝つことはできない。

 居住まいが正しい上にも品があり、思いつめると猪突猛進する堅物。およそ主人公らしからぬ謹厳実直なる武士ー柳田格之進に草彅剛がなりきっていると聞き及んで映画を見に行った。さて、この映画の真の主人公とは商家の大旦那「ケチの源兵衛」だとも感じた。それほど境涯の変化が大きい。

 せせこましいような碁、いやらしい碁、威丈高な碁、直情的な碁、悠然とした碁、碁とは手談であると側聞したことがある。相対する相手が発している気が心地よいか、そうでないかが勝ち負けよりも重要な場面があるのだろう。まして玄人でないのなら嫌いな相手と好き好んで碁を打つこともない。四季の移ろいを背景に碁を打ち続ける二人の関係性は実力の相違を超え風流であった。ただし映画の終盤の展開に分かりにくいところがあって、原作を読んで得心できた。

 ところで個人起業において顧客を取り込む方法にクロージングという手法がある。私はどうもそれが好きになれなかった。その理由が本作を見てわかった。友情を金銭に変えるような魂胆がいやだったのだ。損を承知の上での正直な生き方、武士道の原風景として大切にしたい。
(500文字)

損得づくは商売の上の話で、商売を離れたら奉仕の心を持たなければならない。


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