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罠に嵌った獲物 ♯36
前話は下記の「♯35」です。
周囲はパーティションで囲まれ、
照明は医師の手元以外ほぼ消されていた。
美咲は自分の姿が見えないことに安堵した。
「本日ご紹介する内視鏡は婦人科用の最新モデルです。
従来品より小型化され、不快感や痛みが大幅に軽減されています。
さらに、カメラの解像度が向上し、より正確な診断が可能になりました。
それでは、従来品と新型の比較をご覧ください。
スクリーンにお目を向けてください。」
カーテンの向こうで準備の音が聞こえ、美咲の体は緊張で強張った。
『リラックスしてください。大丈夫ですよ。』
「はい...ありがとうございます。」
美咲と医師の小林はマイクを通して会話していた。
万が一の体調不良や痛み、医師からの指示に備えての措置だった。
『では始めますね。
少しでも痛みを感じたら、すぐにおっしゃってください。』
何かが滑り込む感覚があったが、
予想以上に違和感は少なかった。
小林医師の柔らかな声に、美咲は安心感を覚えた。
事前の挨拶で、小林医師は知的な眼鏡をかけた凛とした印象だったが、
どこか愛らしさのある笑顔が印象的だった。
このまま順調に進むだろうと、美咲は目を閉じて終了を待った。
俺は会場の隅から、この状況を見守りながら内心で笑みを浮かべていた。
美咲の緊張と安堵が入り混じった表情を想像し、
次の展開を楽しみにしていた。
彼女がこの予想外の状況にどう対応するか、興味津々だった。
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