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遠い中国?:TPOFデータから

果たして両岸統一/中台統一は可能か?

 台湾の老百姓=一般民衆は、中国をどのように捉えているか。中国共産党にはどのようなイメージをもっているのか、中国の老百姓との関係をどのように捉えているのか。
 台湾民意基金会(TPOF、Taiwan Public Opinion Foundation、游盈隆理事長 の最新調査(2024年8月)結果がこうした問いへのヒントを与えてくれる。


中国共産党への感情温度


 「0」(強い反感)から「100」(強い好感)の「感情温度計(Feeling Thermometer)により、中国共産党に対する台湾民衆の感情把握度を計測しようとしたのが下表。

TPOF Aug.2024  以下同
【調査】調査期間:2024年8月12〜14日 20歳以上の成人男女、有効サンプル1075、うち固定電話755人、携帯320人 サンプル誤差95%信頼水準±2.99 

 中国共産党への「反感」(0度〜49度)は71.1%に達し、特に(0度〜25度)という「強い反感」は62.2%にも達しており、ほぼ2/3の台湾民衆が中国共産党に対してはよい印象を持ってはいない。一方、中国共産党への「好感」(51度〜100度)も4%余存在しており、本調査における1%とはおよそ19.5万の成人人口に相当することから、2300万の台湾人全体の中で80万人規模で中国共産党への一定の親近感が台湾に存在することとなる。
  2020年以来の経年変化としても、「好感」はほどぼ横這いであるのに対し(「反感」は2021年の低下が特異ではあるものの)、6〜7割台で近年の上昇傾向も窺われる。その結果、平均感情温度も2021年の32度から2024年の17度へと下降しており、「没感覚」(=好きでも嫌いでもない無関心)とほぼパラレルな動きを示している。

両岸命運共同体意識


 次に、「兩岸命運共同體意識」を見ると、なんと6割方が「兩岸命運共同體意識」に賛同する態度をとっている。だが、これは上記の中国共産党への冷ややかな視線が6、7割に達していることとは必ずしも整合的ではない。この「兩岸命運共同體」概念が大陸側主張のものであるとすれば、中国共産党への反感、すなわち,「兩岸命運共同體意識」の否定となるハズではある。となると、この「兩岸命運共同體意識」とは、中国側が提起する「兩岸命運共同體」とは別個のものとして、中台間には一種の運命的な共同体関係が存在するとの台湾の一般民衆の理解がここには想定される。

 この点からすれば、中台間には一体化、すなわち,なんらかの形の「両岸統一」の可能性が少なからず存在することになる。
 

“台灣人與大陸人都是炎黃子孫,所以大陸十四億人的苦難也是我們的苦難”


 だが、その一方で、“台灣人與大陸人都是炎黃子孫,所以大陸十四億人的苦難也是我們的苦難”、すなわち,「台湾人と大陸人は同じ炎黃子孫であるが故に14億人の苦難もまたわが苦難でもある」とのフレーズに対する賛同は2割程度にとどまる。初の総統選挙が行われた1996年段階5割に近い台湾人がこれに賛成したことからすれば、逐年的な低下が窺われる。苦難を共にするという意味での、大陸との一体化意識は薄れつつあるものとも見られる。

 時系列変化として見ても、不同意(不太賛成+一点也不賛成)は傾向的に上昇しているのに対し、賛成(非常賛成+還算賛成)は低下している。とりわけ1996年では4割近くあった「非常賛成」が2割以下に落ち込んでいる点は大きい。やはり中国との一体化意識、とりわけ苦難を共にする運命共同体という意識は薄まりつつあるのだろうか。

“不管台灣與大陸的生活方式有多大差異,我們都要耐心的加以克服,完成祖國統一的神聖任務“


 そうした離反感覚をもたらすものが中台間のライフスタイルの相違であり、その拡大とみることもできよう。その意味では、“不管台灣與大陸的生活方式有多大差異,我們都要耐心的加以克服,完成祖國統一的神聖任務“、すなわち,「台湾と大陸の生活方式がどれほど異なっていようとも、我々はそれを忍耐強く乗り越え、祖国の統一という神聖な任務を完遂しなければならない」というフレーズに対する台湾民衆の回答は大いに注目に値する。

 この回答とは、祖国統一という神聖任務への逡巡であり、その背景要因としてライフスタイルの相違に対する認知が窺われ、ここまで生活方式が違ってきている限り一体化など不可能ではないかという逡巡であろう。

“「祖國統一」或「兩岸終極統一」“


 では、本来の問いとしての両岸統一はどこまで可能と看做されているのか。今回のTPOF調査では、“「祖國統一」或「兩岸終極統一」“への賛同如何を問うているがその集計結果は下表の通りである。

 一見して明らかな通り、この謂に対して賛同する回答は2割を切り、否定的回答がほぼ8割に及んでいることからすれば、台湾民衆にあって“統一”という捉え方は必ずしも本流意識とはなっていない。
 尤も、この問巻(=アンケート)にあっては掲げられているのは《「祖國統一」或「兩岸終極統一」》というワーディングであって、それが「祖国統一」という状態を差し示す謂なのか、それとも中台間の両岸「統一」こそ究極的に目指すべき目標なのか、果たしてそれがどこまで実現可能な目標なのか、といった点は不問のままの設問である。従って、目指すべきではあったとしても到底実現不可能と見るが故にこの設問には「不賛成」を選ぶという回答もありうるし、逆に如何に不可能事であろうとも祖国統一こそ目指すべきとの立場から肯定的回答を選ぶという選択もあろう。

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 若しも、何らかの形で北京側主導による“統一”がなされた際には、 こうした中国共産党への冷たい眼差しと大陸との一体化への否定的認識という台湾老百姓の民意の存在は北京に対して途轍もなく大きな統治コストを課すこととなるであろう。何らかの制圧に成功し、政治、行政、産業経済各部門等の組織、機関を手中に収めたとしても、最終的には如何にして民心を掌握し、それらの統治を如何に円滑に進めるか、それがどこまで可能かが統治の成否を決するからである。
 中国における各種各様の台湾関連研究機関の存在を考慮するならば、北京とてこうした台湾民意の存在は充分認知しているものと推測される。それは中国側の対台湾政策の選択、決定にも大きなインパクトを与える要因のハズだが、そうした台湾民意の存在を敢えて無視し、残された最後のミッシング・リング=未完の現代化という「チャイナ・ドリーム」実現に賭ける可能性も否定することはむつかしい。
 とまれ、中台間の物理的距離としては僅か162kmに過ぎない(金門島の最も近い場所では約2㎞)が、両岸の心理的距離は今や1万光年とも言うべきほどに拡がっている。                                 [了]

#両岸統一   #台湾民意基金会 #TPOF #民意
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