泥の海を渡る㉕

4月。
胸躍る学生達とすれ違う度に涙が出る。
彼も病気に出会わなければ高校3年生。
真面目で一生懸命、勉強も部活にも一生懸命だっただろう。
なんで?

この頃から
夕方になると涙が止まらなくなっていった。
二人きりの食卓になると
「私のせいで病気になってしまった」
「本当にごめんなさい」
「誰に謝って良いのか分からない」
「息ができない」
泣きながら夢を見る毎日になった。

誰かに助けて欲しかった。
でも誰にも言えなった。

夜中に起きて自分の頭を叩く。
朝には
晴れやかな顔で仕事へ行く。

良き妻
良き母
良き社会人
良き娘
になれなかった。
後悔と苦しさで自分を責めるしかなかった。
辛い時ほど
笑顔でいる

よく
明けない夜はない
と話す方がいる。

私には
泥の海しか見えない。
どこまでも続く地平線のない海。
ずっと
この風景が続く。

5月から彼の新薬投薬が始まる。
その前に4月に一時退院する、となった。
彼の希望は一時帰宅が希望になって欲しい。
それだけを願った。

よろしければサポート、お願いします。今日も良い1日をお過ごし下さい。