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マジコンの元太

元太について話そうと思う。

といっても、それは名探偵コナンに出てくる少年、小嶋元太のことではない。小学生の頃、同じクラスだった男の子のことだ。

元太は、実家が不動産屋をやっており、おもちゃを沢山持っていて、すごく太っていた。まあ端的に言って金持ちのガキだった。

そんな彼を元太と呼ぶのは体型だけが理由ではない。
彼について印象に残っているこんなエピソードがある。

私の通っている学校では、毎年秋になると運動会があった。
そんな運動会のお昼どきのことである。
普通は校庭で家族とお弁当を食べるのだが、なぜかその年だけは教室で子どもだけで食べることになっていた。その日たまたま雨が降っていたので、とかだった気がする。

各々自分の机にお弁当を広げ談笑する中、元太のほうをちらと見やると、異変に気が付いた。机の上に何もない。元太はお弁当を持ってきていなかったのだ。

すぐに教師が元太の親に電話をかけようと職員室に行ったまさにその時、放送で元太の名前が呼ばれた。来客が来たらしい。しばらくすると、元太が帰ってきた。

なんと、その手には出前のうな重を抱えていた。紫色の風呂敷にくるまれた、豪華二段重。
量も質も、小学生のお昼ご飯にしては前代未聞である。それでも、いろいろと規格外な体重100キロ越えの小学生には、不思議と似合っているのだった。
少し出遅れたものの、その後驚異のスピードでうな重をかきこみ、ご馳走様を言った元太は、午後には元気に玉入れに参加していた。

これこそが、私が彼を元太と呼ぶ所以である。

ちなみに、運動会が終わった後しばらくして、元太は母親ともども教室に呼び出されていた。
そこで彼らは、

・小学校に出前を呼んだこと
・事前に連絡を入れなかったこと
・そもそも、うな重という小学生らしからぬチョイスは何なのか
・水筒にファンタグレープを入れてこないでください

など、余罪の数々を追及されていた。
私は一部始終を見たわけではないが、母親がヒステリックに抗議の声を上げる中、終始困惑の表情を浮かべながら、おいしそうにドラゴンの水筒でファンタグレープを味わう元太の顔が印象的であった。

結局、その日は家庭への厳重注意という形で解決したのだが、しかし、小学生は外れ値に厳しい。そんな出来事があって以降、元太はクラスから完全に浮いてしまっていた。


そんなある日、元太と二人で遊ぶことになった。

きっかけは忘れてしまったが、確か元太の「うちにすごいゲームがあるから遊ばないか」という言葉だった気がする。

その言葉にまんまと釣られた私は、家の近所の道路で遊ぶ約束をした。うちの地元の小学生は、遊び場所になぜか公園ではなく道路を指定する。

「芳太郎君、これ、言ってたすごいゲーム」

当時DSを持っていなかった私は、ワクワクしながら元太のクリームパンみたいな手元を覗き込む。
すごいゲームかあ。どうぶつの森かな?皆持ってるもんね。
この間ヨーカドーで試遊したマリオカートも面白かったなあ。
ん?
何か黒っぽいね。
もしかしてこの間出たばっかりのポケモンの新しいやつ?
いや違う、これ


マジコンじゃねーか!!!!!

マジコンでした。

しかも、元太は「父親がいないと遊べない」とか言って遊ばせてくれなかった。多分、見せびらかしたかっただけだと思う。

これは完全に余談だが、あの頃の「親が金持ちか、ちょっと機械に詳しい系の小学生」は、大体マジコンを持っていた。親がPCショップの店長だったいとこも持ってたもん。

しかしマジコンの元太は優しかった。マジコンで遊ばせない代わりに、別のゲームを取り出して見せてくれた。

DSテレビ

DSテレビという外部機器だった。
DSテレビについて知らない人に軽く説明すると、任天堂が2007年に発売した「DS用ワンセグチューナー」である。仰々しいアンテナをソフト用の端子から接続すると、なんとDSからでもテレビが見られちゃうのだ。

これ、ゲームか?とは思ったものの、確かに見たことも聞いたこともないすごいものである。新鮮な気持ちで私と元太は小さな画面の中のしょうもないショッピング番組に夢中になった。

とはいえ途中で飽きてしまい、私はがんこちゃんとかが見たかったのでチャンネルを変えるよう元太に頼んだが、元太は「DSが壊れるから」と絶対にいじらせてくれなかった。ケチであった。

しかしマジコンの元太は優しかった。チャンネル権を譲らない代わりに、「DSテレビで下画面を行ったり来たりする人を何度もタッチすると、オナラをする」という意味の分からない小技を教えてくれた。

その後も二人でずっとDSテレビを見ていたが、途中でDSの電池が切れてしまい、テレビを見られなくなってしまった。

すると、マジコンの元太は突然走り出した。行き先は50m先の公園である。

公園にはつきものの石でできた水飲み場にDSを閉じた状態で置くと、マジコンの元太は高らかにこう言った。

「日光に当てると、充電できるから!」

そんな訳ないだろ。

しかし元太はきらきらした目で、7月の日差しがじりじりと照り付けるDSを見守っていた。
私には彼が本気なのかどうかが分からず、ただ一緒になってDSが焼かれていくのをぼうっと見つめていた。

充電を待つ間、「DSのフタの四角が二つ並んだ部分を日光に当てると、より急速に充電できる」とも教えてくれた。嘘テクのくせに変なディテールを凝るんじゃないよ。

5時のチャイムが鳴り、元太は帰った。当然、DSは充電されていなかった。

その後マジコンの元太は、「夏場に汗をかくとシャツに塩の結晶ができる」という特異体質によってクラス中を風靡し、私と遊ぶことはなくなってしまった。

それでもマジコンの元太は優しいので、毎週末家族と沖縄旅行に行く度、私に「かむかむシークヮーサー」の小袋を買ってきてくれたのだった。

マジコンの元太、今も元気にしているだろうか。
今頃は実家の不動産屋を継ぎ、近所の子供にSwitchの嘘テクを教えているのかもしれない。


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