イエルク・シュタイナー イエルク・ミュラー 『ぼくはくまのままでいたかったのに……』
僕にとっての本書:
強いメッセージ。現代文明批判。「自分らしさ」。
イエルク・シュタイナー氏 文 1930年うまれ、スイス。
イエルク・ミュラー氏 絵 1942年うまれ、スイス。
1978年出版。
1990年に第23刷発行。
懐かしい本。両親はたくさんの絵本を持っています。こちらは僕の母親のものです。うちにあるのは第23刷の方です。
イエルク・シュタイナーさんは、作家になる以前は、教師でした。
本作は、ミュラーさんが36歳、シュタイナーさんが48歳のころの作品。
とてもひさしぶりに読みました。そしておどろきました。
かなり強烈な政治性、現代文明批判、マテリアリズム批判と読める(この表現でよいのやら)。
現代文明批判、こちらで書いた「イントゥ・ザ・ワイルド」という映画も、実はそうかもしれません。自然との共生を礼賛し、その対義語である「文明」を嫌悪する。
うん、強烈だ。
また、現代文明批判とあわせて、「自分はなにものであるか」という問いを投げてくる。表題は、「自分が何者であるか」をうばわれ、忘れさせられる、という意味だと僕は思いました。
くまは、自分でありたかった、くまでありたかった。
こういう、「自分でいたい」、「あるがままでいたい」、「わたしらしく」、みたいな、個の尊重というような価値観は、児童文学のテーマになりやすいですね。
現代文明批判、物質批判。個人の礼賛とその裏返しの全体主義批判。
戦後の作品であり、冷戦期の作品。そうなるのには理由があるのだろうと思いました。現代文明批判には、左翼的な色合いが強いし、全体主義批判にはファシズム批判を読み取れる。ナチスやスターリンを知っている人たちの作品だから。
右も左も批判するというスタンス、と言ったら語弊があるでしょうか。でも、だからこそ、「WHO AM I」がテーマになるのだと思います。ぼくはどっちなんだろう、って。
作者の2人、日本語でちょっと検索してもなかなか情報がありませんでした。その中でも見つかったのは、ウィキペディアの「国際アンデルセン賞」。
絵のイエルク・ミュラーさんは、1994年、国際アンデルセン賞を受賞していました。
2年に一度選ばれる、児童文学のノーベル賞とのこと。たいへん栄誉ある賞ですが僕は詳しくありませんでした。これまであつかってきたケストナー、ヤンソン
の名前が確認できます。
ぼくの好きなサトクリフの名前はありません。ただし、勉強になったのは、日本人の方が多く受賞されていました。
絵で2名、文で3名。
すごい。
このことについてはいつかまた書きたい。
その中で、受賞者の
上橋菜穂子氏と
角野栄子氏のウィキペディア記事に、サトクリフの名前がありました。
賞についてよく知っているわけではないのですが、こうした受賞者のリストは、児童文学の歴史を知るうえでは頼れる見取り図にもなると思います。
児童文学を学ぶ、と大きなことを言ったわりに、こういう基本的な部分を見落としていたなあと思いました。