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Barry Wittenstein, Sonny's Bridge: Jazz Legend Sonny Rollins Finds His Groove
僕にとっての本書:
偉大なるジャズマン、ソニー・ロリンズ(1930-)の話。テナーサックスの偉人は、キャリアの絶頂でシーンから姿をけし、橋の下で練習した。来る日も来る日も。納得のいく音が出るまで。
Keith Mallett (イラスト) 、2019年の作品。
和訳はたぶんですが、まだないのだと思います。著者のBarry Wittenstein氏(以下バリー)も、イラストのKeith Mallett氏も、絵本作家。アマゾンのデータですが、Keith Mallettは偉人シリーズみたいなものをてがけている方なのだと思います。
こどものための本、というシリーズで本稿を書いていますけど、英語だから、対象年齢がわかりにくいなあ…でも、中学生は、辞書ひきながらいけると思います…ネイティブは幼稚園年長くらいなのかなあ。ニュアンスなんかは、僕にはよくわからないところが多いです。
ただ、ようするにソニーロリンズというジャズミュージシャンの、少年期とキャリアの一部をきりとって描写する話。高校生以上なら、辞書なしでも絵でだいたいストーリーはわかります。
本書のあつかうテーマは音楽や、特にジャズが好きな方には、とても有名な話。たぶんですが、漫画/映画のBLUE GIANT はソニーの「橋」をモチーフに作られた話だと思われます。
僕は、ソニー・ロリンズの大ファンです。
最近、思ったことがありました。それは、ジャズと児童文学には共通点がある、ということ。こちらの記事を書いていたときのことでした(記事「モモ」)。
共通点というのは、児童文学にもジャズにも、どちらにも、スタンダードが存在する、ということです。そういうことでジャズについて考えていたら、ジャズに関するこどもむけ絵本を持っていたことを思い出したのでした。
最高のミュージシャンたちが、こぞってロリンズを尊敬しているのは、彼にしかできない演奏があるからなのだと思います。それはよくわかる。僕はジャズは好きですが、評論家という感じではありません、そんな僕でも、レストランでロリンズがかかると一発で認識できます。とても特徴的な演奏をする人。
本作は、ロリンズ少年がいかにして音楽に出会い、練習したか。そしてキャリアを歩み、「橋」に向かい、カムバックしていったか、そこまでの物語です。
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ソニーは、あんまりやる気もでないまま、小学校に通っていた。
ジャズ・クラブの横を通ると、ウィンドウには、きらきらのポスター。
タキシードに燕尾服のルイ・ジョーダンだ。
手元の金色のキング・ゼファーサックスが、いまにも「夢」を奏でだしそう。
あれは僕だ、ソニーは憧れ、夢見た。「あれは、僕なんだ!」
一途な人だなあと思う。このまま大人になったんだろうなあ。
そうそう、一途、これがロリンズにぴったりの言葉なんじゃないかな。
たぶん、こうしたひとつの音、自分の音、を夢中で追い求めるロリンズの姿が、教育的によいと、アメリカでは評価されているのでしょう。
ロリンズとの関係で、ときどきニュースにあがる橋のようです。
ロリンズは僕のアイドルです。文学ではヘルマン・ヘッセ(最近は、これがサトクリフになりました)、ジャズではソニーロリンズ、というのが昔からの僕の好みでした。
近年、好きなミュージシャンの訃報を耳にすることが増えました。
大好きなRussell Malone, David Sanborn のときはきつかった……2024年のことでした。
もし、好きなのにライブを見たことがなかった、という場合には、とても悲しい気持ちになります。それにとても後悔する。
さいわい、僕は、ソニー・ロリンズをたった一度だけ、見たことがあります。
学生のころ、東京で。このことは、学生時代の僕の最大のファインプレイだったといっても過言ではない。あのころの私、本当によくやったぞ。
心の底から感動した夜でした
そのころ彼はすでに高齢で、杖をつきながら、ステージにあがってきました。
背中はまがっていました。「大丈夫?」なんて心配するくらい。
その後、「コンバンハ〜」なんてお茶目にあいさつして、サックスを手に取ると、杖を放り出して背筋をシャンと伸ばし、迫力ある音を出していきました。
長年にわたって「豪放」などと評されてきた彼の音でしたが、たしかにそういう強さもあった。でも、年齢もあるし、強さといってもピークではないわけだ。ただし強さよりも何よりも、「自由」、という感覚をくれるライブでした。音が自由に踊る、そんな感じ。
僕と、僕がもっとも敬愛する年長者との対話の時間でした。
ただ、これは彼を見ることができた最後の機会になりました。肺の病でサックスを吹けなくなったからです。それは、彼にとっては翼をもがれるような悲しみでした。友人たちが次々と旅たっていく中、自分は翼をなくしたまま、この世にいる。
それでも、ときどきメディアにあらわれる彼はいつもポジティブなメッセージを発しています。社会や、ジャズ界の若手にむかって。
そういう「巨人」の話。
ソニー・セオドア・ロリンズは、1930年生まれ。
小学生のころ、ロリンズのアメリカは、世界大戦に突入。
終戦の前年、1944年、彼はサックスを母に買ってもらった。14歳のときでした。週に一度、25セントでレッスンを受けました。
21歳でマイルス・デイヴィスとレコーディング。
25歳くらいのころにはドラッグに苦しみました。
その後、がんばって、1956年、「サキソフォン・コロッサス」で天下をとりました。
1958年までが、彼の最初のピーク。
そして1959年から1961年まで、ウィリアムズ・バーグ橋で練習しました。
太平洋戦争がはじまったころ、彼はサックスをはじめた。冷戦期にキャリアは頂点に。そしてキューバ革命のころ、「橋」の下に隠れた。
本書では、黒人たちによる差別との闘いも描かれます。
ロリンズが「橋」をレコーディングしたのは1962年。
キング牧師の大行進の前年でした。