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小さな本堂

私が生まれた時は既に家にはお仏壇があって、身近すぎてあまり意識していなかった。

大事だと思う物は
「仏様のとこ置いといて~」
という感じで、宝くじまで置かせてもらっていた。

自分の意思で仏様と向き合ったのは
考えてみれば最近の事かもしれない。

生活の一部のように仏様と過ごしてきたのも私としては良いとも思うけど、
あまりにも知らないことが多すぎた。
この歳にして、恥ずかしながら今回初めて
知ったことも幾つかある。
そして、お仏壇に対する気持ちは改めて、、いや、初めての感覚だった。


昨年末から何度か仏具屋さんに行っていた。
中々行くことはないので、この度改めて店内の様子を知る。

昔からある商店街のお店。
チェーン店ではなく、家族で営む個人経営のお店は、仏具店らしい静かな佇まいで
落ち着いている。

入り口に大きな仏像。
奥の突き当たりにも大きな仏像。
お寺にいるようだった。
なんとなく澄んだ空気に包まれていた。

お店の方はとても気さくで、店内を案内して説明をしてくれた。

木彫りの仏像がたくさん並んでいる。
私がひとつひとつじっくり見つめていると、
お嫁さんが声をかけてくれた。

「全部、手彫りなんですよ。」

細かく彫られた細工部分は計ったように
左右対称でとても素晴らしくて、
今にも動き出しそうな表情も、手も
体温すら感じられそうだった。

これが手彫りだとは、、と驚いた。
…手彫りだからこそ。だとも思う。

魂が込められたご本尊様のお顔は優しくて
慈悲深い。見惚れてしまった。

「私にとっては義父ですね。先代が彫りました。浅草で修行をして、若い頃はずっとあちらでやってきたそうです。手彫りはこの辺では恐らくウチだけだと思います。」

そして、ひとつの仏像を手に取り、

「こちらは、どなたかにお貸ししたそうですが、一部分が折れて返ってきたそうで、
それからずっとそのままなんですよ…」


先代を懐かしむように微笑みながら
俯き話すその様子に、
私も少ししっとりとした気持ちになり、

「…そうだったんですね。そんな思い出があるんですね…」

・・・

と、その時

お嫁さんがふと私の後ろに目をやり、
綺麗に指を揃え、手を差し出した。


「あ、今お話しした先代です。」と。


私は慌てて振り向き、
ちょっと驚いてしまった。

私は、…てっきり、
先代は…。

・・・


80歳を過ぎていらっしゃるであろう先代は
とても元気よく階段を降りてきた。
お仏像に見入る私に張りのある声で
「こっちにおいで。もっと面白いものを見せてあげるから」と更に奥へ案内してくれ、
手彫りの工程が分かるように、各々の部分の途中経過を見せてくれた。

大人になってから社会科見学をしているようで、和んだ。

一通り説明が終えると、最後に
「いやぁ、つまらない話しをしました。
聞いて頂きありがとうございます」と丁寧に頭を下げられた。
「いえいえ、とんでもございません。
とても興味深いお話しありがとうございました」と頭を下げあった。


お線香をあげ、手を合わせる時、
私は今まで戒名の書かれたお位牌に向けて
いた。

それでも良かったんだと思うけど、
正式には、ご本尊様にまずは気持ちを向けるということを知った。

…無知すぎましたか?
皆さんご存知の常識でしたでしょうか?


お仏壇は小さな本堂。

そう教えて頂いた。

小さな本堂と知ると、
気持ちが一層しゃんとした。

ご主人が、
「私たちは、お仏壇を仏様になられた方の
新しいお住まいと考えるので、御納めになる日はできるだけ善い日にしたいと思っています。四十九日に近い大安があれば一番良いですね」
と言ってくれた。

このお話しが私たち家族の心を癒してくれた。
娘や息子も行ける時は一緒に仏具店に行き、
家族みんなで全てを選んだ。


何度か通ったが、行く度に尊い気持ちを
教えて頂き、パワースポットに行ったような
なんとも清々しい気持ちを感じて帰ってきた。

この時に、こんな気持ちになるのは如何なものか?塞ぎ込むこともせず、新しい感動を尚も感じることをする私の心は一体どうなっているんだろう?どこかの回路がどうにかなってるのだろうか?
どんな状況でもいつもどこか冷静な自分がいて、俯瞰しているのを感じる時がある。
それを有難いと感謝すればいいのだろうか?

自分の感情に戸惑いながらも
感じるまま
抗わずにいたらこうなっていた。

…なんだろうね?


ご本尊様には眼に石を入れてもらった。
高いところから、みんなを見守るうっすらと開いたその眼は心の奥深くまで見つめてくれているようでとても安心する。

娘が一番喜んでくれるようにと選んだ
「おりん」は
少し高い音で、余韻が心地よく長く続く。

一度目のチーンに、少し遅れて二度目の
チーンをすると、
なんとも言い表せない
素敵な不協和音が耳から脳に渡り、
渦を巻くように包んでいく。

合わせる手と気持ちに輝きを
持たせてくれる。

大切に、大切にしていきたい。
どれもこれも全部。



※なんか、
ちょっと高いところに行っちゃったんですよね。少し寂しくもあるんですけど、
安心してもいいのかな。とも思ったり。

相変わらず、食べて、寝て、丈夫に過ごしております。




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