
お三輪の「十六むさし」_『着物の文様とその見方』 【読書感想】
歌舞伎が好きで、ときどき観に行くのだが、難しいのが舞踊と衣裳だ。
ストーリーは、セリフやしぐさからざっくりと追うことができても、舞踊と衣裳は「わぁキレイ」という初歩的な感想から先へ、なかなか進めない。
そこで手に取った本。本当は、読むだけでなく実践(着るとか踊るとか)するのが良いのだろうけれど…。
『着物の文様とその見方』は特定非営利活動法人・京都古布保存会のコレクションから、着物・帯・半襟・帯留が紹介されている。

四季で分けられていて、すべてカラーページなので、どの文様も色使いも美しい。
説明は描かれた花や模様の名前に留まらない。
たとえば、「麻の葉」は、まっすぐに伸びる麻にあやかって子どもの産着や下着に使われたなど、文様に込められた願いや意味が説明されているし、他にもその着物が作られた時代に関する話もあるので勉強になる。
思いがけないことだったのが、タイトルにも書いた、《妹背山婦女庭訓》のお三輪の衣裳「十六むさし」に関するコラムが載っていたこと。

以前、中村時蔵のお三輪を観るために予習をし、お三輪の衣裳を「十六むさし」の柄にしたのは9代目市川團十郎らしいと知ったのだったが、その理由までは探せなかった。(参考:【ちょっと予習】妹背山婦女庭訓 三笠山御殿の場)
なんと、この本に「歌舞伎の衣裳 〜お三輪を例として〜」というコラムがあり、そこに次のような記載があったのだ。
一見すると、お三輪と遊戯である十六むさしは関係がないように思われますが、十六むさしは「むさし」とも呼ばれていました。そして「むさし」という語は二股をかけるという「二道掛」の付合語(連歌や俳諧で前句と付句を関連づける契機となる語句のこと)でもあります。親石を求女にたとえると、橘姫とお三輪という子石を両方とる、二股をかけていると連想できるのです。
付合語は「つけあいご」と読むようだが、「二道掛」は「ふたみちがけ」だろうか? この本、全体的にフリガナが少ない。着物や歌に親しんでいる方々であればなんなく読めるのかもしれない。
フリガナの件はともかく、予想しないところから情報が得られて幸運だった。
この点はラッキーだったが、舞台衣裳に関するものではないので、着物についてどの文様がどんなときに適しているのか、どんな意味を持っているのか、色と文様の組み合わせの面白さ美しさを知るのに役立つと思う。
なお、文様の名前とパターンを多く知りたいときは、『文様図鑑』(監修:木村孝)が親切だ。
たとえば「菊」の文様だけで7つの例が載っていたり、着物を衣桁に掛けた状態で見たときの文様の構成方法の名称(片身替わりとか段替わりとか)が載っている。フリガナがしっかりついているのもありがたく、歌舞伎の衣裳を観るのにも役立ちそうだ。
