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『歌右衛門の六十年』 【うちの本棚】#歌舞伎
読書感想でなく、本棚にある歌舞伎関連書籍について、どんな本なのか記録しつつ紹介するものです。
基本情報
タイトル:歌右衛門の六十年
発行(奥付の初版の年を記載):1986年
著者:中村歌右衛門・山川静夫
出版:岩波新書
1992年の第2版を持っている。
特徴
山川静夫が、6代目中村歌右衛門にインタビューという形で、歌右衛門の幼少期から、歌舞伎界のリーダーとなってからまでを聞くもの。
生まれつき左足を脱臼していて、手術のあとも右足に体重をかけなければまっすぐ立っていられない、という話は驚きだ。
歌舞伎を骨董にしないために歌舞伎には新作が必要で、それも歌舞伎役者でなければできない新作が欲しいのだ、という現在にも通じる課題も語られている。
会話形式になっていて、歌右衛門の声の調子、丁寧ながら気の強い言葉が聞こえてきそうである。
6代目歌右衛門の幼少時代からを語っていくインタビューなので、昭和を初期から60年まるっと語るようなもの。
質問の背景や、歌右衛門の返答について山川静夫による多少の解説はあるが、◯代目誰々、のように数十年前の役者の名前が多く出てくるし、演目、役柄の話も多いので初心者向けとは言えない。
その他
表紙の写真を撮ろうとして、おや、となった。オレンジ色だ。表紙の色は赤色だと記憶違いしていた。
つまり、そのぐらい昔に手に入れた本。
この本は、歌舞伎役者の頂点に立って、強い風を受け続けてきた役者の言葉、という印象だ。
終わりに、山川静夫は次のように書いている。
いったん立女形をはった役者は、もはや脇にすわることは出来ない。いくつになっても政岡であり、玉手であり、八重垣姫として、舞台に立たねばならない。
次第に衰えていく気力体力、若手が台頭してくる重圧に耐えて、進み続ける。文字で見るより、実際はずっと過酷なはず。(自分も年を取ってくると、少しずつ分かってくる)
わたしは6代目歌右衛門の舞台を実際に観ることができなかった。
思い出すのはインタビュー映像や、凛とした役柄の映像なのだが、6代目歌右衛門の華奢で美しい姿に、なぜかまるで逆の、決して折れない強さと恐ろしさを感じる理由は、立女形の宿命(?)と関係があるのかもしれない。