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腸閉塞体験記 7日目①

2025年1月13日(月・祝)

6:00   起床時間

朝だ。ついに起床時間まで眠ることが出来た。
昨夜は0時前まで起きていたので実質6時間程度だが、途中トイレに行かずに眠れた。すごい進歩だ。
看護師さんが来られて、順番に患者さんたちの体調を確認していく。私も体温と血圧と血糖値と酸素飽和度を測定してもらう。全て異常無し。

トイレに行き、洗面所で顔を洗って歯磨きをする。今日で丸一週間か。もう少しだな。

ロールカーテンを半分開けて外を眺める。遠くの山は...白くないな。今日も冬晴れだ。そう言えば今日は成人の日だっけ。晴れて良かった。二十歳の皆さん、おめでとうございます。

テレビを付けて朝のニュース番組を見る。やはり成人式関係のニュースが多い。地方では1日前倒しで昨日式典をした所も多いようだ。都会の大学から成人式のために帰省する子も多いのだろう。3連休の中日にやってくれる方が助かる。

私は成人式に出席していない。地元を出て都会で就職していた私は、住民票も移していたため、当時住んでいた自治体から成人式の案内が届いていた。当たり前だが。
会社の同僚は住所はバラバラだし、住んでいた町には多分、同い年の知り合いはいない。とても出席する勇気など無かった。

地元の成人式になら出たのになぁ。同窓会みたいで楽しそう。学生なら出席できたのだろうか?
当時は、着物の着付けも髪のセットも面倒だし、出席しなくて済んで良かった、なんて思っていたが、楽しそうなニュース映像を見ているとちょっと残念に思う。

私は小さな田舎町で育った。小学校入学時の同級生は私を入れて30人だった。小5と中1の年にそれぞれ1人ずつ転入生がやってきたので、中学校は32人で卒業した。9年間(厳密に言えば幼稚園もみんな一緒なので10年間)ずっと、ほぼ同じメンバーだ。クラス替えも無いので、仲良くならざるを得ない。
8割くらいの子は同じ高校に進学したので、更に3年間一緒だった。本当に長い付き合いだ。小さないざこざは当然あっただろうが、思い出すのは楽しかったことばかりだ。

同級生のみんなは元気だろうか?私のように手術を繰り返したりしてはいないかなぁ。みんな楽しく暮らしていると良いけど...

7:20頃 朝食

温かいラタトゥイユが嬉しい。酸味が強すぎず優しい味だ。
普段私は牛乳を飲まないが、病院食で毎朝出されるということは、やっぱり飲んだ方が良いのだろうなぁ。つい甘いコーヒーとか紅茶を飲んでしまう。夏は冷たいジュースをがぶ飲みだ。飲み物の選び方一つとっても、私のは肥満に繋がる選択なんだなと反省する。

あっさりしたみかん缶もいただいて完食。ご馳走様でした。食器を返却して、お箸セットを洗って、うがいをする。

今日は先生が来られるんだったな。それらしい時間にはベッドにいないといけないから、早めにウォーキングを済ませておこう。

あ、体重も測っておこう。今朝の体重は...76.8㎏。少しだけど昨日より減ってる。順調、順調。とはいえ調子に乗ってはいけない。早足にならないよう意識してゆっくり歩く。5周して、ベッドに戻る。

9:00頃 先生の回診

主治医の先生が来られて、痛みはどうですか?と尋ねられる。変に力をかけなければ痛みは全然無いです、と答える。
今日はお腹の管を抜いてしまいましょう、と病室のベッドの上で処置が始まる。管を抜き、傷口を消毒して、大きなガーゼを当ててテープで留める。多分大丈夫だと思いますが、ガーゼが濡れるほど出血や体液の滲出があるようなら、看護師さんにすぐ言ってくださいね、と言われる。今日一日様子を見て大丈夫そうなら、明日退院しましょうか。

えっ、もう退院出来るんですか⁈驚いて思わず聞き返す。ええ、明日の朝早く採血して、白血球の数値に問題が無ければもう退院してもらって大丈夫ですよ、と微笑んで帰られる。お礼を言って見送る。

そうなのか、明日退院出来るのか。大きなガーゼが当てられていてシャワーが出来ないのは残念だが、明日退院なら全然問題無い。
退院かぁ...忙しくなるぞ。

家族にLINEで連絡する。緊急入院だったため、退院の段取りもまだ決まっていない。とりあえず、退院の時に着る服を持って来てもらえるよう頼む。あと準備しておくべきことは...

気は逸るものの、今ここで私に出来ることはあまり無いと気付く。じたばたしても仕方ない、今日が最後だと思っていっそのんびり過ごそう。どうせ家に帰ったらゆっくりしていられないだろうし。

先生が帰られた後しばらくして、日中担当の看護師さんが来られて退院についての説明を受ける。退院時間は基本的には朝10時だそうだ。平日のその時間に家族に迎えに来てもらうのは難しい。一人でも帰れなくはないだろうが、どうしようか?頭の中でシュミレーションしてみる。悩んでる私を見て、どうしても朝は無理そうでしたら、午後からでも大丈夫ですよ、と言ってくれた。そうか、良かった。それなら全然問題無い。

デイルームに移動して、スマホ作業などして過ごす。東南の方角にあるらしいデイルームは、今日もよく陽が当たって暖かだ。リハビリに勤しむ方、のんびりテレビを楽しむ方、陽気に誘われてうたた寝を始める方、それぞれの時間が流れていく。

12:00頃 昼食

無事に血糖値測定をクリアして昼食だ。
今日の主菜は中華煮。とろみもあって美味しい。久しぶりだなぁ、中華。そろそろラーメンとか食べたくなってきた。そう言えば、病院では麺って出ないな。柔らかく茹でたら食べやすそうだけど...やっぱり伸びてしまうからかなぁ。

フレッシュフルーツもいただいて完食。ご馳走様でした。食器を返却して、お箸セットを洗って、うがいをする。

さて、昼食後のウォーキングだ。
エレベーターの横を通り過ぎる時、ふとエレベーターの向かいに階段と書かれた扉があるのが目に入った。
階段!手術後まだ階段行ってないな。そうだ、どうせなら...

病室に戻ってベストを羽織り、靴下とスニーカーを履く。どうせならあそこ、この病室の窓のすぐ外に見える、あの場所に行ってみよう。

エレベーターの向かいにある扉を開いて、階段を降りる。一つ下の階で再び扉を開けて廊下に出る。「屋上庭園」と書かれた矢印に向かって進む。少し重い鉄の扉を開ける。

外だ!一週間ぶりの外!
マスク外していいかなぁ?いいよね、外だもん。他に誰もいないし。
庭園と言っても、ただの広場に石のベンチが円形に並んでいるだけだが、久しぶりに触れる外の空気は清々しく、冷たさが心地良かった。

深呼吸する。空に向かって両手を思いっきり伸ばしてみる。うわ〜、気持ちいい!
ベンチの外側をぐるりと1周歩いて、太陽に背を向けて座る。石のベンチはひんやりと冷たいが、陽が当たっているからそんなに寒くはない。

スマホをポケットから取り出して、音楽アプリを開く。「ガーデン/藤井 風」。ここのガーデンに花は咲いてないけどね、と苦笑しながら一緒に口ずさむ。そう言えば、歌を歌うのも一週間ぶりだ。

少し離れたところから電車の走る音が聞こえる。病院のすぐ隣りにある公園を見下ろすと、散歩やジョギングをしている人々の姿が見える。人間社会に戻ってきた気がして感慨深い。

ゆっくり流れてきた雲が太陽を隠すと、一気に空気が冷たさを増した。ちょっと冷えてきたな、そろそろ帰ろう。

新鮮な外の空気に触れ、大好きな歌も歌えてリフレッシュした私は大満足で病室に戻る。窓からさっきまでいた屋上庭園を眺める。
円形広場の外周には、砂利が敷き詰められたスペースがある。元々は花壇だったのだろうか?前回の入院は初夏だったけど、その時花は咲いていたかなぁ...覚えてないや。春や夏に来たら花が植えられているのだろうか。いやいや、見に来てる場合じゃない。もうここには来ないようにしないと。


ここまでで一旦終わりにします。お察しの通り、この文章を書いている私は既に退院しています。家にいるとどうしても雑事に追われて、なかなか筆が進みません。それでも隙間時間を見つけて、頑張って思い出して記録を続けようと思います。最後まで読んでくださった方がいらっしゃいましたら、どうもありがとうございます。気が向かれましたら、また続きをご覧ください。



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