鏡でしゃかしゃか
「あ、見えてきた」
息子0歳6ヶ月
歯茎からのぞく小さな白。
歯茎だけの笑顔はいつのまにか昨日で最後を迎えていた。
赤ちゃんから一歩進んで子どもになっていく。
息子1歳
とっくにミルクも卒業して離乳食もほぼ完了期。
頭がちょこっとのぞくだけだった下の前歯も、2本生え揃って笑顔で眩しくひかる。
息子2歳10ヶ月
ほぼ生え揃った歯でとうもろこしや骨付きチキンを齧り取れるように。
「は、はさんだ」
口に指を突っ込みながら息子は言う。
おしゃべりも上手になって…と感心してる間に、大きな鶏肉の破片やとうもろこしの粒の皮が面白いくらい歯の間に挟まっている。
歯茎だけだった赤ちゃんから、歯の間になにか挟まった感覚までわかるようになるんだ。それも3年足らずで。
あーん、と一緒になって口を大きく開けながら息子の歯磨きをする。
じっとしていてくれる日はすぐピカピカの歯に。
しかし、時はイヤイヤ期。
あーん、して「ィやだヨ〜」
一回すわって「ィヒヒやだヨ〜」
無理やり押さえつけて強引に歯を磨くことも考えた。
でも、毎回はきつい。歯磨き=嫌なものと認識させたくない。
そうだ!自分でやってみ「ィやだヨ〜」
チッ。自分でやってみて作戦わりと効くはずなのに。
どうしたものか、悩んでいると一つ気がついたことがあった。
指で歯をなぞっている。
一応歯に興味はあるんだ。
…じゃあ、見えた方がいいか!
次の日、小さな鏡を渡してみた。
「あーん、イーッ、ってしたら歯が見えるよ」と教えると興味津々で鏡を覗き込み、目を輝かせて夢中でにらめっこし始めた。
「イーッ、しゃかしゃかーってするとピカピカになるよ」と徐に歯ブラシを渡す。すんなり受け取って磨き始めた。
よく考えれば、自分の歯を見たのは初めてだったんだ。そりゃ面白いに決まってる。
赤ちゃんのころの歯茎だけの笑顔が恋しい日もあった。その時だけの特別な笑顔。
でも今は、真っ白な歯全開で笑う息子の顔が一番に浮かぶ。
今の歯ともあと数年したらお別れになるだろう。
それまではいい歯でいい笑顔で大人の歯にバトンタッチしようね。
鏡で見ながらしゃかしゃか、しゃかしゃか。
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