失敗こそが宝物「失敗の科学」要約・所感
おはようございます。本日はマシューサイド氏著書の「失敗の科学」について取り上げます。マシュー氏の本を取り上げるのはこれで3冊目になります。
みなさんは、失敗についてどのようにお考えですか。本書にも出てくるのですが日本では諸外国と比べて失敗を不名誉なことと捉える傾向があります。ある調査では失敗に対する恐怖心が最も高かった国として紹介されています。私も少なからずマイナスイメージがありました。
しかし、本書では成功に向かって進んでいくためには「失敗に対して進んで検証を繰り返す他ない」むしろ「進んで失敗しろ」といえるくらいの内容で書かれています。この考えが論理的にも裏付けられており、読後はしっかりと納得させられます。
以下に本書からの学んだことを説明していきたいと思います。
1. 航空業界にあって、医療業界に無いもの 失敗に対する姿勢
本書では多くのページを割いて航空業界と医療業界の失敗に対する姿勢の違いが解説されております。
航空業界にとって事故は一件でも起これば終わり、一事が万事で決してあってはならない事と認識されています。その為、実際の事故に至らないインシデントの段階で積極的に報告があがります。毎週の様に新たな課題がみつかりそれを元にルールを見直しているのです。
ひと度事故が起これば、第三者による入念な調査を受入れ、それを業界全体で共有し再発防止を徹底していきます。彼らには失敗に対してオープンな姿勢で向き合う失敗のプロフェッショナルなのです。
一方で医療業界はどうでしょうか。実はアメリカで医療過誤によって亡くなる方が年間4.4万人にも及ぶと言われています。これら計算上ではボーイング717が毎日2機の頻度で墜落事故を起こしているのに相当します。
仮に医療過誤によって患者が亡くなったとしても「最善は尽くしたが助けられなかった」と片付けられ、その後の検証もされることなく処理されてしまうことが往々にして起こっているのです。
恐ろしいのは殺人鬼のような医者が問題を起こしているのではないということ。医療過誤が最も起こりやすいのは医者に悪意がある時でもやる気がない時でもない。真面目に患者を救おうとしているときなのです。
訴えられて裁判にでもならない限り、事故後の調査をすることは殆ありません。医師たちの間では完璧では無い事は無能に等しいという考え方があり、情報開示に対する抵抗は根深いのです。彼らにとって失敗は調査されなければ存在さえしないのです。たとえ失敗にうすうす気づいていたとしても。
また医療業界の大きな問題は、ミスが発覚したとしても業界全体で共有されないということも挙げられます。医療業界のような失敗に後ろ向きで改善に向かわない状態をクローズドループ現象といいます。
2. 我々は自分自身で失敗を隠す
そもそも人は誰しもが失敗を受け入れるのは難しいのです。友達同士の気軽なゲームですら自分の成績が悪いだけで不機嫌になり、仕事や人生に関わる重要な場面での失敗となると認めるのは別次元の難しさとなります。
何故そうなのか、その鍵を握るのは認知的不協和とされます。それは自分の信念と事実とが矛盾している状態あるいはその状態によって生じる不快感やストレス状態を指します。
人はたいてい自分が筋の通った人間だと思っています。だからこその信念に反する事実が起こると途端に自尊心が脅されておかしなことになってしまいます。
この状態の解決策は2つあり、1つは自分の信念が間違っていたと認める方法があります。しかしこれは実に難しい、なぜなら自分が思っていたほど有能ではないと認めることが怖いからです。
もう1つの方法は事実をあるがまま受け入れずに否定すること。そして自分の都合の良いように解釈することです。その信念が深ければ深いほどその傾向は強くなります。世の中のあらゆる対立する派閥の溝が、一向に埋まらないのはこのためです。
さらに明晰な頭脳を誇る学者や専門家ほどこの傾向が強いのです。なぜなら彼らは失敗によって失うものが大きいからです。自尊心が学びを妨げ、理論や予想が外れた途端に歪曲した解釈に弁が立ちます。
認知的不協和が何よりも恐ろしいのは自分がその影響下にある事を自覚するのが難しい点にあります。
そこから脱するには自分の信念や仮説に溺れずに健全な反証を行うこと。我々はつい自分が分かっていることの検証ばかりに時間をかけてしまうが、本当はまだ分かっていないことを見出す方がよっぽど大切なのです。
3. 失敗の試行錯誤で人類は進化していく 失敗から学ぶために必要なこと
そもそも人類は選択と自然淘汰を繰り返し(試行錯誤)て進化をしてきたのです。詳しくは↓こちらのnoteをご覧ください。
なぜ自由市場経済は繁栄して計画経済は破綻したのか。自由市場における自然淘汰は倒産です。毎年アメリカ企業の10%は事業に失敗して消え去っているといいます。ある学者はこれを創造的破壊と呼んだそうです。自由市場のシステムは失敗が多くても大丈夫なのではなく、失敗が多いからこそ上手くいくのです。
一方で計画経済は誰も失敗しない経済と言えます。誰もが成功することは失敗から学んで繁栄するチャンスを失っていると言い換えられるのです。
本書では失敗から学ぶために以下のような方法を推奨しています。
・ランダム化比較試験
対照群をもうけて検証制度を高める手法。灰色の問題を白黒はっきりさせます。原因や介入手段と結果を分離して曖昧な要素を排除し客観的な評価を可能とします。
・マージナルゲイン
小さな改善の繰り返しで大きな飛躍をすること。課題が大きなときはまず小さく分解して一つ一つの改善を積み重ねましょう。一発逆転ではなく百発逆転。いきなりホームランを狙ってはいけません。
地球温暖化や貧困問題のような大きな問題をはじめ我々の身の周りに起こる問題の検証は非常に複雑です。皮肉なことに人間社会とは自然界よりもよっぽど複雑なのです。人間の行動を予測する一般理論など存在しません。だからこそ私達は成功に向かって歩むためにたくさんの失敗から反証して試行錯誤を繰り返していかなければならないのです。
所感
日本で育ち、それなりに失敗に対してマイナスイメージの強かった私としては、失敗についてのイメージをガラリと変えられました。
医療職の端くれである私からしても、医療業界の問題については感じるところは多くありました。実際に職場でも失敗=無能とまでは行きませんが、何かアクシデントが起こると当事者を犯人(まるで罪人)として扱われやすい環境ではあると思います。医療でのアクシデントがどうしても患者と医療者の1対1という関係になりやすいことも背景としてあるのではないかと思います(航空業界では1体1ではなく1対多数の客、1対機体となるのだろう)。チームのメンバーが失敗に対する認識を改めて報告を積極的に行う。マージナルゲインで課題を細かく改善していく。それを繰り返していければ医療業界でもオープンループで成長へ持っていくことが可能だと思います。報告のしやすい職場環境づくりがまず第1歩ですね。
さらに詳しく知りたい方は是非手にとって読んでみてください。