万年筆欲しい

以前の記事で万年筆について記しました。「万年筆の情報だけ見ていたい」と書いたわけですが、2週間経った今、ものの見事に万年筆の実物が欲しくなっています。愚か。浅薄。ピエロ。

しかしどうせ買うなら、10本も20本もコレクションするのではなく、人生に1つ「これだ」という逸品を手に入れたい。その1本を見つけるのが非常に難しいです。あれよこれよと迷っているうちに、気づけばiPhoneの写真フォルダは万年筆まみれになってしまいました。このまま右往左往していても埒が明かないので、ここで迷いを書き記して気持ちを晴らしてしまおうと思います。

ラミー2000


言わずと知れたドイツの名門万年筆メーカー、ラミー。万年筆に詳しくない人でも、ワイヤークリップが特徴的な「ラミーサファリ」なら見たことがあるかもしれません。文房具店だけでなく、オシャレな雑貨店でも置かれていることがありますね。それだけデザイン性が高いことで知られ、ラミーサファリは値段も比較的抑えられているため入門用モデルとしても好まれています。

が、俺はラミーサファリを差し置いてラミー2000が欲しい。ラミー2000はラミーサファリより先に開発された、原点ともいえるモデルです。発売されたのは1966年ですが、当時から「2000年になっても古びないデザイン」を企図して作られました。その美しさは、はるか2024年になっても一目瞭然。いまだに色褪せない傑作モデルとして知られています。

最初は「確かにシュッとしてるねえ」くらいの印象だったんです、ラミー2000。というのもラミーサファリはカラバリ豊富で目に鮮やかなのに、ラミー2000はダークグレーとシルバーのツートンで、とてもビビッドな色合いとはいえません。自分の子供心は、もっとカラフルな万年筆に心惹かれていました。

それが急転したのは8月、渋谷ロフトに立ち寄ったときのこと。学生のころは高価な万年筆コーナーの存在にすら気づかなかったのですが、今訪れると雑誌でしか見たことのなかったあのブランドやこのモデルがズラッと並んでいる!

その刺激に痺れるなか、とりわけ雷に打たれたように突き刺さったのがラミー2000の実物でした。万年筆といえばクラシカルで重厚なデザインが多いなか、要素を削ぎ落とした近代的なデザイン。そのシンプルさが、ショーケースの中で冷たい光を放っていました。自分は「無機質なカッコ良さ」が大好きです。そしてラミー2000は、「こうなりたい」と思う姿の体現でした。

へえ良かったじゃないの。
じゃあ買ったらいいじゃないのラミー2000。 

ここに迷いがあります。

「こうなりたい」と思うとき、わずかな違和感を感じました。それは本当に、内面的な成長を願う純粋な気持ちだろうか? 多分そうではない。そこには間違いなく「他人からこう見られたい」という下心がある。自分はラミー2000を持つことで自分をカッコ良く成長させる努力をしようとしているのではなく、ラミー2000を持っただけで他人からカッコいいと思われたいと思っている。そんな邪念に気づいたとき、純粋な気持ちでラミー2000を手に取ることができなくなってしまいました。


Classic Ko 蒔絵文房万年筆
Floret dot SV(フローレット ドット SV)(グレー)

日本の老舗万年筆メーカー、セーラー万年筆が販売するモデル。蒔絵の手法でジュエリーを展開するブランドClassic Koと制作した逸品です。そして自分が惹きつけられたのは、グレーの小花柄の万年筆。

一目見たときに思ったのです、「これだ」と。
その次の瞬間に思いました、「これか?」と。

まずグレーが好きというのがあります。ブラックでもホワイトでもなくグレー。黒か白のプロダクトは世の中に溢れているのですが、グレーとなると途端に少なくなるように思います。それも好みな深みのあるグレーとなるとより一層。その点、蒔絵文房万年筆のグレーは非常に奥行きがあって高級感のあるグレーです。そして最大の特徴である小花柄。この玉虫色の小花は夜光貝でできているとのこと。つまり螺鈿(らでん)ですね。自分は螺鈿にめっぽう弱いです。無彩色のなかで紫や青に変転する色彩が美しい。この静と動のカラートーンにしっかり心をつかまれました。

しかし。

自分がなりたいものは「無機質なカッコ良さ」で、それに憧れています。しかしこの万年筆は無機質というより、カッコいいというより……そう、ひたすらにカワイイです。むちゃくちゃ最高にカワイイ。それは自分の目指すペルソナではない。けれど、カッコいいと思われたいばかりにこの万年筆をカワイイと思う自然な感情を否定していいのか? 

なりたい自分。今こうある自分。エゴ。自尊心。見栄。万年筆を選びたいだけなのに、なぜか自分の心のもろい部分が露呈してきました。

ちょっと気分を変えて別の角度から見てみましょう。

SAILOR Bespoke

万年筆の話をする前に、いきなりですが宣伝をさせてください。

冷凍睡眠管理ゲーム『FREEZIA』!
あなたは人類の冷凍睡眠を管理する人工知能。人間を氷漬けにして、世界の安寧と救済をもたらしましょう。
itch.ioにて無料で公開中! 今すぐプレイだ!

ということで、自分がこれまでに発表したゲームに『FREEZIA』という作品があります。割と思い出深い作品で、特にアートワークがお気に入り。青と白のツートーンにラメが散っているデザインは、かなりイイ感じにできたと思っているゲームです。

それゆえ、日常生活でも青と白を基調としたグッズを見つけると、つい欲しくなってしまいます。万年筆でも当然探しました。しかしそれほど都合のいいアイテムというものはそうそう見つかりません。さすがに万年筆は自分では作れないしな~。無理か~。

と思っていた矢先に見つけたのがSAILOR Bespokeでした。蒔絵文房万年筆と同じくセーラー万年筆が提供するサービスです。

SAILOR Bespokeは万年筆のカスタマイズオーダーサービス。自分が選んだ軸色や蓋のカラーを組み合わせて、お好みの万年筆を作ることができます。組合せ可能なパターンは、なんと驚異の462万通り。まさに自分だけの万年筆を作れる唯一無二のサービスです。

なるほどね。まあ物は試しにやってみますかね。せっかくだし、いっちょ『FREEZIA』イメージの万年筆でも作ってみますか~。



あれっ!? すごいピンポイントで再現できてね!?

青と白のツートーンはもちろんのこと、ハードルが高いラメですら再現できています。これまでに見てきたどんなFREEZIA概念よりFREEZIAを体現している。これは、手元に置きたい!! 欲しいが!?

欲しいが……

上記の画像を見て思った方もいるのではないでしょうか。「めっちゃキラめいてるな」と。上から下までラメラメラメラメ。書き物をしている間、常にトゥインクルが手元で存在を主張します。これは、なんというか……美しすぎて集中できないのではないのだろうか。仕事とか。もし所有するとしても、2本目とか3本目のコレクションであって普段使いする代物ではないのではないだろうか。

それなら、まずは1本目の万年筆を手に入れて、それから貯金して買うしかないね。とか思ってたら、SAILOR Bespokeのサービスは2024年9月30日をもって終了するそうです。えっ……欲しいんですけど……ほ、欲しいけど……


ますます混迷を極める理想の万年筆選び。今月には文房具イベント「趣味の文具祭」でさらに多くの万年筆を見に行く予定があり、もうどうなるか分かりません。

話は全く変わりますが、最近VRChatで話題のとあるプレイヤーさんは、自身が使うアバターに対して「自分の魂の形と一番そっくり」と感じたそうです(MoguLive)。自分の魂とそっくり。とても素敵な表現だと思います。同じように万年筆も、「こう見られたい」「こうありたい」「自分はこうである」というしがらみに縛られないような、魂と同じかたちの1本を見つけられたらいいなと思います。

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