子育てをきっかけに兵庫県洲本市に移住した小林 力さんのLOCAL MATCH STORY 〜将来の起業を見据えて地域おこし協力隊に挑戦!〜
移住を経験し、地域で活躍されている人を紹介する「LOCAL MATCH STORY」。
今回は、兵庫県洲本市に移住された小林 力さんをご紹介します。そして、この記事は小林さんご本人に執筆いただきました。
私の自己紹介
小林 力(こばやし りき)
新潟県新潟市出身・兵庫県洲本市企画課 (地域おこし協力隊)
都内のIT企業に就職後、システムエンジニアとしてシステム開発やコンサルティングに携わっていました。
その後、2021年に兵庫県洲本市の地域おこし協力隊として移住し、過疎集落の地図インフラの構築や古民家をリノベーションした拠点づくりなどを行っています。
私が移住した地域はこんなところ
兵庫県洲本市は、淡路島の中央に位置している人口約4万人の街です。淡路島を通る神戸淡路鳴門自動車道を使うと、神戸方面にも徳島方面にも約1時間で行ける距離にあります。神戸市内からは直通の高速バスも利用でき、公共交通機関を使っても訪れやすい街です。
年間を通じて「温暖・多照・少雨」の瀬戸内気候区に分類されており、暮らしやすいエリアです。洲本市は中心市街地に市役所や病院、スーパーなどが集約しており、コンパクトな街で暮らしやすいと思います。
街から海や山との距離も近く、便利な市街地の暮らしと自然の近い暮らしの両立ができます。
▼洲本市について
なぜ移住しようと考えたのか
移住を考え始めたのは「子育て」がきっかけでした。
2019年の9月に長女が生まれ、子どもとの時間を過ごしていくうちに、夫婦で「将来の暮らし方」について会話する機会が増えました。
子どもたちと過ごす時間を大切にしたい
もう少し働く時間を減らしたい
働き方・暮らし方を見直したい
そんな夫婦の会話の中で、どのようにしたら現状を変えていけるか検討を進めていったところ「地方移住」という選択肢が浮上してきました。
もともと住んでいた東京では、夫婦ともに業務量の多い職場で、共働きをしながら子育てをしていました。
都内で高い家賃を支払いながら、仕事中心の暮らし方を続けていくことにワクワクしなかったり、自然豊かな場所で子どもを育てたいという気持ち強くなったりしたことで、地方移住を具体的に検討し始めました。
移住するまでこんなことありました
地方移住を検討して実際に淡路島に移住するまでに、ちょうど1年かかりました。
地方移住を検討し始めてからは、移住候補先となる自治体の担当者の方と移住相談を重ねたり、オンラインの移住相談会に参加したりして、8か月ほど情報収集をしていました。
子育てをする上では「実家の助けも借りたい」と考えていたこともあり、妻の実家のある兵庫県に移住しようと考えていました。
兵庫県の中でも何度か旅行で訪れた淡路島は、気候が温暖で暮らしやすそうであり、神戸も近く便利そうだったので具体的に検討を進めていきました。
淡路島への移住を進める時には、自治体から委託を受けて移住促進をしている「NPO法人あわじFANクラブ」の窓口で、移住相談を進めることができます。
▼あわじ暮らし総合相談窓口
移住相談員さんから、自分と同じような状況(職業や子連れ)の方を紹介してもらい、移住後の生活について相談させていただくことができました。
特に、子連れで移住した後の生活収支の状況などは参考になることが多く、移住後に暮らしが維持できそうかを知ることで、不安が取り除けたように感じます。
最終的には、先輩移住者の方のご意見も参考にして「地域おこし協力隊」の制度を活用した移住を目指すことにしました。
移住後のライフスタイル
移住してからは、都内の会社勤務時代のような電車通勤の時間がなくなり、生活のリズムも大きく変わりました。
在宅での仕事が増えたので、前日は子どもを寝かしつける時間帯にあわせて早寝になり、家族が起きる前の早朝から仕事を始める「朝活」スタイルになりました。
また、玉ねぎの定植などの一次産業や、草刈りなどの外作業をやる機会も増えたので「天候」にあわせた仕事の進め方にもなりました。
雨の日や暑さ寒さが厳しい時間帯は無理して外作業をせず、デスクワークを進めます。デスクワークが溜まって来ると、「雨の日」を期待してしまっている自分も…。
都内に通勤している時には「雨の日」を期待したことは一度もなかったですが、住む場所や働き方が変われば、天気すら受け止め方が変わります。
移住してわかった地方暮らしの魅力
食べ物が食卓に並ぶ過程が見えたこと
淡路島に移住してから、食べ物が食卓に並ぶまでの過程の解像度が上がりました。
農家の知り合いができ、玉ねぎやレタスなどのおすそ分けをもらう機会が増えたからです。
おすそ分けをいただくので、一緒に玉ねぎの収穫や仕訳作業をしたり、定植作業をさせてもらったりもしました。
実際に畑に入って作業をすると、玉ねぎが食卓に並ぶまでの工程を体験することができます。玉ねぎの入ったケースはとても重く、収穫作業も重労働であることが分かると、食べ物や生産者に対する感謝の気持ちがより強くなります。
多様な働き方の人に出会えたこと
移住してからは、農家や飲食店経営の他、古民家宿の経営をしながら塾講師をしたり、染め物をしながらデザイナーをしたりと、多様な仕事や働き方をしている人とたくさん出会えました。
東京では身近に会社員の職種しかいなかったので、将来的には個人で仕事を創っていきたいと考えていた私にとっては、とても刺激的な移住先でした。
自分で生業を持ち、暮らしを営んでいる人を見ていると、自分にもできるかもしれないという気持ちも高まります。
移住者の方が多く、いろいろな人がいる淡路島は私にとって「働き方の多様性」を教えてくれた場所でした。
移住先での住まいについて
土地勘もない淡路島でしたが、地域おこし協力隊として着任する前に一度地元の不動産屋を訪れ、物件を紹介していただきました。まずは、家族4人で生活するのに窮屈ではない間取りと、スーパーや活動地域が近い(車で15分)市街地エリアを選択して決めました。
駐車場も2台確保することができ、とても助かっています。
都内にいた頃は家賃と駐車場代を合わせて毎月12万円近く払っていたので、月々の固定費の削減ができています。
移住先でのお金事情について
淡路島で家族4人(夫婦+2歳児+0歳児)の場合
地域おこし協力隊の報酬だけでは、家族4人が暮らしていくには正直なところ厳しいと感じています。
特に、地域おこし協力隊になった直後は多くの方が退職1年目に当たり、前職の給与水準での保険料や住民税の支払いがあるため、負担が大きいです。
副業で月3~5万円の収入が得られるようになってくると、少し生活にゆとりが出てくると思います。
移住後の月々の収支は、こちらで推移をまとめています。
▼田舎の生活費|移住後の働き方戦略室ブログ
移住先の暮らしで困ったこと
気軽に行ける公園がなかった
洲本市は海も山も近く、自然豊かな場所ですが、住宅街に気軽に行ける小さな公園がなかったので、意外と困りました。
移住した初年度は2歳と0歳の子どもがおり、2歳の娘は特に遊び盛り。滑り台や砂場で他の子どもたちと遊びたいと思うのですが、家の近くに歩いて行けるような小さな公園がないので、散歩に困りました。
子育て世帯が移住先を調べる時には、生活圏にスーパーや病院、郵便局などがあるかどうか以外に、普段使いできる公園があるかどうかも確認しておくと良いと思います。
淡路島に移住してからは、知り合いの農家さんの畑で収穫体験をさせてもらったり、田んぼで虫を追いかけたりと、田舎ならではの遊び方を子どもたちと模索しています(笑)
地域おこし協力隊に応募した理由
現実的な移住の手段だと思った
地域おこし協力隊の仕事は、移住直後の生活を支える当面の収入源になり、子連れで移住をする私や家族にとって、最も現実的な移住の手段だと思いました。
当時、私が地方移住を決断する時に最も気にしたことは、移住後の仕事のことでした。移住を検討している中で第2子の妊娠も分かり、子育てをしながら移住後の仕事を見つける必要があった私にとっては、「最大3年間の仕事と収入」「住居」がある地域おこし協力隊は、家族の生計を立てていく上で、現実的な手段だと考えていました。
独立起業するための準備期間に活用したいと思った
移住後は会社に属さず、個人で働く方法を模索していたので、地域おこし協力隊を独立までの準備期間にしたいと思っていました。当時、大学時代の友人が地域おこし協力隊をしていたので、いろいろと相談に乗ってもらいました。
普通に移住するよりも地域おこし協力隊の活動を通じて、地域の人脈や実績を積み上げていく方が、最終的にやりたいことが実現できるのではないか、と背中を押してもらいました。
この2点が地域おこし協力隊に応募した大きな理由です。
地域おこし協力隊になるまでにやったこと
わたしの場合は、淡路島に移住する現実的な手段として地域おこし協力隊に興味を持ったので、淡路島にある三市(淡路市・洲本市・南あわじ市)の地域おこし協力隊について調べることから始めました。
各自治体のホームページを見たり、運用されているFacebookページを検索したりしていました。現役の隊員が今どんな活動をしているのか、その後どうなっているのかも興味があったので、SNSの発信を追ったり、メディアへの掲載を調べたりしていました。当時、妻にはストーカーっぽいとも言われたこともありましたが…(笑)
それだけ、外から見ていると地域おこし協力隊が何をやっているのか分からなかったわけです。
調べていく中で、地域おこし協力隊の募集がでるタイミングが現役の隊員の任期が終了する少し前から始まる(隊員の入れ替わり)傾向にあると気づき、そろそろ募集が出そうだなと思った時期には、毎日自治体のホームページを確認していました。
結果的には、募集がでたタイミングが自分の移住したいタイミングと重なり、活動内容も興味のある内容だった洲本市の地域おこし協力隊に応募しました。
地域おこし協力隊の活動内容
現在は、淡路島に位置する千草竹原という集落の活性化につながる活動に取り組んでいます。
私が着任した竹原集落は世帯数が少なく過疎が進む集落ですが、長年住民の方が積極的に活動を進め、大学生との連携や小水力発電の導入などのよって関係人口の創出をされてきました。
古民家のリノベーション
現在は、集落にある空き家のリノベーションを進め、集落で活動される方の拠点づくりをしています。古民家の片づけからコツコツとはじめ、地元の工務店さんと協力して水回りの改修などに着手しています。
既存の生業の支援
集落には観光農園やキャンプ場、しいたけ狩りといった自然を楽しめるアクティビティをはじめ、2021年には移住者の方が営むレストランがオープンしました。
現在は、しいたけ栽培で使う原木の調達作業や、レストランの集客につながるようなWebメディアの支援をしています。
一次産業から飲食店など、これまで関わってこなかった業種に関わることができ、毎日が社会の課外授業のような感覚です。
地図インフラの構築と情報発信
レストランの開業やしいたけ栽培事業の継業など、集落で活動される関係者が増えたことや関係人口が増えたことで、より集落の情報を外に発信していく必要があると感じました。
その活動の1つとして、これまで未整備だった地図インフラ(Googleストリートビュー)の構築を進め、現在はインターネット経由で集落の様子が見られるようになりました。
関係人口が増え、集落にも変化が表れる過渡期において、集落の拠点の整備(ハード面)と既存の生業の支援と情報発信(ソフト面)の両軸から地域の活性化につながる活動をしています。
地域おこし協力隊の受け入れ体制や関係する人々
自分の挑戦を後押ししてくれる体制
私が着任したミッションは、細かい業務内容や方向性が決まっているわけではなく「自分で考えて進めていく」タイプの仕事でした。
地域の状況を把握し、課題を設定して、施策の方向性を考えて行動に移していくような、とても裁量の大きい仕事です。
会社員時代、もっと自分の力を試したいと考えていた私にとって、これ以上ない「挑戦の場」としてやりがいのあるミッションでした。
一方、仕事の進め方も行動に移していく術やスキルもない新入社員の頃の私だったら、何からしたらいいか分からず、途方に暮れてしまうような自由度の高い仕事でもあると思います。
自分で「やること」を決め、それが地域の方にとってもプラスになりそうだと分かれば、自治体の方や関係者のみなさんのサポートはとても手厚いです。
特に「人を紹介してもらう」ことは、非常にありがたいサポートです。地域おこし協力隊だからこそ出会えた人は数多く、そのつながりは移住間もない私にとってプライベートな人脈の広がりにもつながりました。
地域おこし協力隊は、地域の方や自治体職員の方が持ち合わせている人脈や信頼を借りることができ、地域に馴染みやすい特殊な職種であることを実感しました。
地域の人との関係構築
地域の人と信頼関係を構築するコツは「コミュニケーションより時間の共有」だと感じました。
地域の人から信頼されるには「コミュニケーション力」が大切と思われがちですが、それより先に地域の人と「時間を共有すること」を優先すると、結果的にはコミュニケーションにもつながって、信頼が積み重なるからです。
地域の活動に積極的に参加する
畑作業や玄関の掃除をする(毎日姿を見せる)
世間話をする
移住後、地域の方と時間を共有する方法はたくさんあります。地域の人と同じ場所で、同じ作業をして、一緒に汗をかいたり何気ない世間話の時間を重ねたりすることが大切です。流暢な会話より“そこ”にいるという時間の共有が、地域の人との心の距離を詰めるコツだと思います。
地域おこし協力隊の3年計画
【1年目(2021年4月~~2022年3月)】
地域の人と出会い、人脈を広げる
地域おこし協力隊1年目は「断らない」をモットーに、誘われたらいろいろなコミュニティに飛び込むようにしました。
地域おこし協力隊はありがたいことに、たくさんお声かけいただく機会があります。コミュニティに飛び込むと、その都度新しい出会いがあります。地域の人や地域おこし協力隊OB・OG、地域イベント、居酒屋のお客さん同士のつながりが増えていくことで、移住後の暮らしも充実していきます。
【2年目(2022年4月~~2023年3月)】※現在2年目
活動をカタチにして押し進める
1年目に走り出したプロジェクトを、2年目に本格的にカタチにして、押し進めていきます。拠点の整備や、地域で活動する事業者や自分たちが継続的に稼いでいけるイベントや新しい仕掛けを企画して、カタチにしていきます。
【3年目(2022年4月~~2024年3月)】
(小見出し)失敗と軌道修正を進める
3年目は、1~2年目の経験をもとに地域や地域の事業者、自分たちにお金が動くような活動をより実践的に行う予定です。
失敗と軌道修正のサイクルを何度も回し、得られた経験を次の仕掛けと卒隊後の仕事につなげていきたいと考えています。
地域おこし協力隊卒業後にやりたいこと
地域にお金を落とせる仕事がしたい
移住後は、複数の収入の柱をつくるために地域おこし協力隊をしながらライター業務をしたり、法人向け資料制作の仕事をしたりしています。まずは、移住した地でしっかり生計を立てられるようにしたいと考えています。
そして、地域おこし協力隊をきっかけに出会った地域の人や移住してきた人と、ワクワクする仕事や地域に還元できるような仕事が作れたらよいなと考えています。
地域おこし協力隊の魅力
地方で挑戦したい人にはこれ以上ない環境
地域おこし協力隊は、以下の3つがある状態で挑戦をすることができます。
最大3年間の収入
住める場所(活動費で賄われるので家賃実質0円)
地域の人からの応援
これだけ、優遇されている職種も珍しいのではないでしょうか。
挑戦には失敗がつきものですが、地域おこし協力隊は任期中に一定の収入が担保されています。地域の特産物を使って作った商品が、仮に1個も売れなくても明日の食べ物に困ることはありません。
それでも、挑戦によって「商品作りの苦労」「商品作りまでにお世話になった人とのつながり」「商品が売れなかった体験」など、多くの経験が得られます。
地域の人にとっても、外から来てくれた人の挑戦は、活力を与えてくれたり、失敗だったかもしれない商品は、次の商品のたたき台になったりします。
このように、地域おこし協力隊は失敗しても大丈夫な環境が魅力の1つだと感じます。
地域おこし協力隊の大変なところ
やりきる力がないと信頼はついてこない
地域おこし協力隊は、良くも悪くも注目され、期待と疑いの眼差しで見られています。
この人はどんな活動をしてくれるのだろうか
本当に地域に貢献してくれるのだろうか
自治体の人は、地域にとって良い影響を与えてくれるものと期待しています。地域の人は暖かく迎え入れてくれる人もいれば、信頼に足る人物かを慎重に見定める人もいます。
そんな中で、自身の活動を応援してもらいながら進めていくためには、地域の清掃活動や頼まれごと、地域おこし協力隊として取り組んだ活動をしっかりとやり切ることが大切です。
安心して失敗する環境がある地域おこし協力隊ですが、環境に甘んじず、成果が出るまでやり切る姿勢が、私は重要だと考えています。
移住を検討している方へのメッセージ
どう暮らしたいかを真面目に考えてみる時間を作ってみて
普段何気なく暮らしていると仕事や育児で大変だったり、スマートフォンやSNSの普及によって大量・高速に流れゆく情報に触れ続けたり、何かと忙しさを感じる日々を過ごしている方も多いと思います。
忙しい毎日ですが、今の暮らしに不安があったり現状を変えたいと思ったりしたのであれば、「今後どう暮らしたいのか」を一度立ち止まって真面目に考えてみる時間をとってみると良いと思います。
パートナーがいるなら、お互いに話し合う機会をつくるのも大切です。
今後の暮らしは「今」の積み重ねだと思いますので、ぜひ、試してみてください。
(終わり) 執筆時期:2022年4月
LIFULL 地方創生からお知らせ
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