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波乱万丈な僕がタルト専門店の店主になって再びクリエイターを目指す理由-17

「補助金を使って全国への知名度を目指す」

18席ある客席のうち毎日お客様が座っているのは2〜4席だけだった。用意しているランチの食材が無駄になった。カフェの立地は最寄駅から徒歩20分の旧市街地の中。駐車場はあったがカフェから一筋離れたわかりにくい場所。周囲の住民は高齢化が進み、夜には人影がなくなる寂しい路地裏のカフェ。

飲食店が成功するためには、店舗の周辺に人通りがあること。あるいはお店のほど近くに駐車場が3台以上あること。出来れば大通りに面していること。商圏内に自分たちのターゲット層が多く在住しているか、その人たちの職場があること。

どの条件も満たしていない場合は顧客を全国から集めるため、大きな知名度を獲得している必要があった。最初のプレスリリースである程度の顧客を呼ぶことができたら、そこから必ずリピーターを掴むこと。口コミで認知を広げること。そのどれも上手くいっていなかった。なんとか運営を続けられていたのは2階にあった革教室の生徒が定着していたこと、毎月商圏になる地域にポスティングを続けていたからだった。商圏地域の高齢化はさらに進み空き家も目立つようになってきていた。この商圏から顧客を呼ぶことはもう限界だろう。移転するほどの資本はない。そんな中でどうやってこの店を再生するか?「ブランディング」を仕事にしてきた僕が失敗したなら「ブランディング」が出来ないプランナーのレッテルを貼られるだろう。知恵を振り絞る必要があった。

出した結論は業態自体を変えてしまうことだった。今ある設備資源をうまく活用しながら新しい業態を探る必要があった。

この前年、僕たちは一度大手の鉄道会社の子会社で「駅ナカ」の店舗を管理している会社を訪問したことがある。「駅ナカ」ってどうなんだろう?単純にそういう興味からだった。その時対応してくれた担当者が「今、駅ナカに催事出店してもらえる店舗は常に探しています。ただし2週間の出店で1日あたり15万円〜20万円売り上げることになるので、それなりの製造量が必要になります」と言われた。

この頃、僕たちの店では少しだけどタルトをお茶うけとしてお客様に販売していた。とても好評だった。でも使っているのは家庭用の電気オーブン。タルトは皮を焼いてから中身を詰めてもう一度焼く手間のかかるお菓子。上に乗せるコンフィチュールも手作りだった。1日に焼けるのは5ホール。

もしも駅ナカでタルトを販売するなら2週間分として1日40ホール×14日=560ホール?!とてもじゃないが今の僕たちに手の出る数ではなかった。あとで、一日15万円〜20万円という数字はかなり盛っていて、有名店のこれまで最も売り上げた数字を基準にしていると分かったけれど、それでも1週間あたり200ホールは製造できなければ出店は難しかった。今の厨房機器では無理だ。

業務用のガスオーブンはいくら位するのだろう?調べると中型オーブンで約35万円前後。貯金は底をついていた。

その時に補助金のことを思い出した。広報宣伝や売り上げ改善のために返済義務のない中小企業庁からの支援。そして「小規模事業者持続化補助金」にたどり着いた。最大50万円まで必要な予算の2/3を補助してくれる。ただし補助されるのはその費用を支払った後、領収書などの提示で使用した金額が確認されてからだった。30万円の補助を受けるには、まず自分で30万円を用意してオーブンを購入して、その領収書を提示すれば30万円の2/3、つまり20万円が補助されるので、実際には自分たちに必要な金額は10万円だけということになる。

業務用中型オーブンを使えば1回の焼成でタルト10ホールを20分で焼けることになる。1日に5回焼けば50ホール。もちろんロスや時間の超過など計算通りにはいかないだろうけど、駅ナカ出店の可能性は見えてきた。少なくともフリーマーケット程度の催事なら問題なく出店できる。僕たちは全国的な知名度を上げてゆくことを目指すことにした。今ある商圏では難しいのなら全国が商圏になれば良い。そして補助金の項目の中に「首都圏での販売催事出店費用」を入れた。小規模事業者持続化補助金はPR事業及びそれに伴う交通費や出店費用も対象となっていた。

補助金の申請には簡易な「経営計画」が必要だ。その補助金を使う目的と、使うことによって得られるメリット(売上や利益)をできるだけ具体的に書かなくてはならない。プランニングの仕事をしていたことが役に立った。

僕たちの「小規模事業者持続化補助金」は採択された。

厨房に中型ガスオーブンが運び込まれ、タルトの製造が始まった。

これが最初のリスタートとなった。

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