ソーシャル・ワークスタイルフォーラムに参加してきた。(NPO・NGO・ソーシャルビジネス領域に関わりたい人向けのイベント)
はじめに
先日、ソーシャル・ワークスタイルフォーラムなるイベントへ参加してきた。転職サイトDODAが主催しているもので、NPO・NGOやソーシャルビジネスを手がける法人と、それらの組織で働くことに興味がある人をマッチングするためのイベントだ。2016年に1回目が開催され、その時は300名前後くらいの参加者だったそうだが、今回は事前エントリーは800を越え、当日も少なくとも400名を越える人が来ていたのではないだろうか。参加した上で印象に残ったことを紹介したい。
基調講演のキーワードはWell-Being(ウェルビーイング)
基調講演をされていたのはユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社にて取締役 人事総務本部長を務める島田由香氏であった。ティール組織関連の企画などでよく名前を目にすることはあったが、直接話を伺うのは初めてだった。わずか15分の尺だったが、内容は一貫して「幸せ」についてであり、Well-Beingという概念を紹介していた。この概念は、先日参加したシェアリングエコノミー2019でwired日本版の編集長の松島氏も使っていたが、このキーワードはマインドフルネスなどの次のバズワードになるのかもしれない。
島田氏は、PERMAというキーワードでWell-Beingの概念について紹介していた。以下の単語の頭文字を合わせたものである。
Positive emotion:ポジティブな感情
Engagement:主体的な関わり
Relationship:よい人間関係
Meaning:人生の意味や意義の自覚
Accomplishment:達成感・熟練
この5つの度合いが持続的に幸せを感じられているかどうかに強く関係しているそうだ。これらを意識していきましょうという旨を話されていた。ソーシャルワークというテーマだからだと思うが、まさか転職系のイベントでこの単語を聴くとは思わなかったので驚いた。
■ボーダレス・ジャパンという組織の仕組みがユニーク
実は最近友人のタイムライン上で見かけて気になっていた会社があった。それが(株)ボーダレス・ジャパンである。社名では何をやっているのか分からないが、実は9カ国で30事業を手がけている社会課題を解決する起業家集団なのである。
私がユニークだと思ったのが、その30事業にはそれぞれ社長がいて、事業を独立採算で行なっているということだ。そして、毎月MMという、成長ステージがバラバラの4社ずつで毎月相談し合っているとのこと。また、その上で得た利益はその事業部だけのものになるのではなく、ボーダレスグループ全体のものになるとのこと。それは、利益は自分だけで得たものではなく、これまでサポートしてくれた人のおかげさまでもあるという恩送りの発想から来ているそうだ。この利益の捉え方が、日本型ティールのパイオニア的存在と言われているダイヤモンドメディア創業者の武井浩三さんの捉え方と似ている気がした。そのためか、この仕組み自体が自立分散型組織、生命体型組織を意識されているような気がしたことが印象的だった。私はこの組織形態が次世代型だと感じている。個人的にももっと知ってみたい会社である。
社会課題に取り組む上では、NPOと会社どちらの形態がいいのか?
(1)株式会社キズキ代表の安田祐輔氏の話より
キズキは、「何度でもやり直せる社会」を創るという理念を掲げて、不登校・ひきこもり経験者向けの学習塾、貧困世帯の支援、うつや発達障害の方向けの就労移行支援などの事業を関東・関西で展開している会社である。
最初は、NPOとして上記の活動をしていたそうだが売り上げが1億を越えた頃から、NPOとしてのやりにくさを感じたそうだ。大きく分けると3つ。1つ目が、採用。NPOが(主に安定性、制度面から)転職先として評判が悪いこと。2つ目が、ガバナンス。NPO法というものがあり、これはみんなで合意していこうというもの。事業拡大を進めていく上での意思決定スピードに影響が出るため壁になる。3つ目、ファイナンス。組織の規模が小さいうちは100万円の助成金は嬉しいが、規模が大きくなるとできることが限られてしまう。
以上の理由から、会社を設立しシフトしたそうだ。
(2)認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹氏の話より
フローレンスは、日本初、共済型・訪問型病児保育。待機児童問題解決のためのおうち保育園。日本初、障害児保育園ヘレン。等を運営している日本のNPOのパイオニアのような存在であり、オピニオンリーダーでもある。活動を始めた2000年代前半では、「NPOって何?んぽって言うんですか?」と言われたり「・・・で、本業は何ですか?」と聞かれてしまうほどNPOの存在感はなかったそうだ。その後、社会起業家という言葉が入ってきて、そ流れが変わっていったという。
駒崎氏が言っていたこと。企業は規模拡大で社会に影響を与えていこうとする。NPOは、規模ではなく政策提言を行い、政策を変えて、あるいは新しく策定することを通じて、日本中で課題を解決するというものだという。私は、この話を聞いてこれがNPO活動の本質の1つではないかと思った。
政策提言とは、政治家もやっていることだが、通ることはなかなかない。その理由は、前例主義だから。「それやったことあるの?」で止まってしまうという。しかし、NPOの強みは小さく成功モデルを作った上で提案できることだそうだ。
例えば、おうち保育園を作り、それが後に小規模認可保育所という政策に繋がっていった事例がある。これは、児童がもともと20名以上いなければ保育所として運営できないという法律があった。そこに対してなぜその人数なのかを聞いても的を得た返答を得られなかった駒崎さんは、これは理由がないと読み、知人の政治家に相談し、試しにやってみる許可を取りつけた。そして、実際にやってみたところ問題なくできた。
その後、その場に政治家の方も招待して見学してもらった上で、法律を変える提言をし、実際に通すことができた。その結果、日本中で4000近くの箇所に小規模認可保育所ができたそうなのだ。このインパクトはものすごい。
自分たちが全部のエリアでやれる必要はない。大切なことは、守りたい人を守れるかどうか。それがNPOの役割だと言い切っていた。もちろん、駒崎さんとチームがそれまでの不断の努力で積み重ねた実績と人脈があってこそ成し遂げられたものだが、1つのNPOの理想の形、勝ち方としてすごく印象に残った。
(3)まとめ?
身もふたもないまとめになるが、どちらの形態がいいではなく、当事者にとってどうしたいのか?どんなフェーズなのか?どんなプロセスで取り組んでいきたい価値観なのか?ということなのかなと思った。
関わりたい社会課題が明確ではない時は、中間組織に関わるという選択肢がある
登壇者の方が言っていてなるほどと思ったこと。通常、NPO・NGOなどは、この社会課題を解決する!という情熱的なリーダーがいるイメージがある気がする。だからこそ、特定の課題についての問題意識がないと、社会課題へ取り組むことってできないんじゃないかと思ってしまうのではないか。(もちろん、情熱の形は様々なのだが、目立つのはそういうタイプの人だと思っている。)しかし、中にはNPO向けにサポートを行なっている中間組織というものがある。例えば、プロボノと支援団体をコーディネートするサービスグラントや、組織の資金調達をクラウドファウンディングという方法で支援するReadyforなど。これらの組織に関わっていくと多くの社会課題及び、支援組織を知ることができる。その上で、特に興味が湧いた対象に関わっていくというステップは誰でも活かせる現実的な選択だと思った。
DODAが社会貢献としてやったフォーラムらしい。
最後のディスカッションで主催者側のリーダーの方の話で知ったのだが、なんとこのフォーラム、出展料は無料だったそうだ。また、運営スタッフである社員もボランティアだったらしい。
「本当だったらすごいが、、本当かな?アピールなんじゃないかな?」と疑ってしまうのは、きっと自分がひねくれているからだろう。でも、もし本当に有志によって結成されて、成し遂げることができたこの成果とプロセス、言い換えれば、主催者曰くKPI化できない実績の適正な評価をスタッフのみなさんが得たとしたら、それはすごいことだと思う。なぜならば、NPOをはじめとしたソーシャルな活動とは、効率至上の資本主義において、評価されてこなかった、影となった部分に対して、光をあてる、価値を再定義するチャレンジであると思っていて、その主催側がそのような企画の仕方をしたとしたらそれはすごく上記の意味において本質的だと感じるからだ。
また、アンケートにも書いたがもし今後開催されることになって、この企画の運営側に他の組織のスタッフ・プロボノなども混ざってやっていくことになったとしたらさらにいいごちゃ混ぜ感になりそう。従来のネット求人広告組織とは違った毛色になる可能性を勝手に感じた。(もともとネット求人広告会社に勤めていたことがあるからそう感じるのかもしれない。)ちなみにネットで検索してみたところ、似たカテゴリーの転職フェアは、マイナビの主催する医療・福祉業界インターンシップフェアくらいしか見つからなかった。
さいごに
今回のフォーラムで紹介されていた仕事は言い換えると、手触り感がある仕事、サポートする相手の顔が見える、かつ人と人として関わることができる仕事だと言えるだろう。
こういった仕事を求める動きは、数年前からキーワードとして頻出している地方移住、田舎と都会の2拠点居住を求める動きと個人的には重なって思える。一言で言うならば、個人が全体性・生命体感を取り戻す動きということだ。
グローバル資本主義を牽引したアメリカではその途上でNPOを含めたボランティア従事者が爆発的に増えたという。これは、デジタル化、仕組み化していく仕事の中で冒頭に紹介したwell-beingのようなものを見出せなくなった人々が、救いを、自己表現を求めた結果であるという話を聞いたことがある。
それだけ今社会に広がっている仕組みが人間を不自然へと導く構造になっているのだろう。効率至上のグローバル資本主義がもたらした不自然さに対する、アンチテーゼとしてのティールという概念。SDGsの流れも含めて、生命体というメタファーはますます色々なところで使われそうな予感がする。。。
しまった。まだまだ続きそうな書き方をしてしまったが、今日はこのへんで。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?