金の国水の国
「金の国水の国」
二つの国による戦争を防ぐ為、ぽっちゃりな姫と世捨て人の建築士が色んな人を巻き込みながら奮闘する話。
とても面白かったです。
男女の恋が世界の危機を左右する、ジャンルとしてはいわゆるセカイ系ってやつですね。
舞台は架空の国ですが、ファンタジー要素はななく、多くの人物がそれぞれに重要な役割を果たしつつ戦争を防ぐという現代的な寓話になってました。
なので子供から大人まで楽しめる作品になってるのではないかと。逆に子供にはちょっと退屈かもしれません。
舞台とあらすじ
舞台は砂漠に佇む裕福な金の国アルハミド、そして緑豊かな貧しい水の国、バイカリ。
しょうもない理由で起きた長い戦争は、互いの国の男女をそれぞれ婿、嫁として贈り合うことでひとまずの終わりを見ます。
金の国は美女を水の国へ
水の国は賢者を金の国へ
といった具合に。
ただ仲が悪い国王同士は取り決めに従うわけがなく・・・
賢者を受け入れるはずだった王女、サーラの元へ送られたのはまさかの犬で。
美女を受け入れるはずだった建築士ナヤンバヤルの家にはまさかの猫がやってきました。
人でなく動物を送りつけられたという侮辱行為が知れ渡ると再び戦争となり、血が流れることは必至。
婿を迎えるはずだった心優しい王女サーラは犬が来たということは伏せることにしますが、姉である王女レオポルディーネから「どんな婿が来たのか、王宮に連れてきてクレメンス」と言われ大焦り。
そこで森で偶然出会った青年、ナランバヤルに婿のフリをしてもらうことになります。
そのナランバヤルこそ、本来美人の嫁を迎えるはずだったバイカリの住民でした。
長きに渡る戦争を経てなお、未だ圧倒的技術と兵力を持った商業大国アルハミド。
その発展を目の当たりにしたナランバヤルは、また戦争が起これば今度こそ母国が滅ぶとビビり散らかします。
ただアルハミドも裕福ではあれど水資源が少なく国の建築にもガタが来ていること、国王一派と王女一派が権力争いをしていることなど、決して完璧な国ではない事実もナランバヤルは見抜いていました。
そこで彼は両国の戦争を防ぎ、さらには国交を回復する策を思い付きます。
その後ニセ婿として王女レオポルディーネに謁見した際に出会ったイケメン左大臣サラディーンに、ナランバヤルはある提案を持ちかけるのでした。
おっとりした王女サーラとお調子者の青年ナランバヤル。
こうして心優しい2人のついた小さなウソは両国の運命を大きく変えていくことになります。
登場人物
サーラ
主人公。おっとりした性格のぽっちゃりした女性。
王族ではあるものの権力は持っておらず、住まいも王宮ではななく別の場所でばあやと2人暮らし。
バイカリから贈られた犬、ルクマンとの散歩中にバイカリに迷い込み、ナランバヤルと出会う。
臆病ながらも、誰かのために立ち上がることの出来る勇敢な性格。
演じる浜辺美波さん、か細くも芯のある声でとても素敵でした。
ナランバヤル
主人公。お調子者の技師。
優秀な建築士でありながらも国の事業が頓挫したことで半ば世捨て人となっていたところ、アルハミドからの嫁 (猫)を貰い受けることに。
森で出会った純朴なサーラに惹かれ、アルハミドとバイカリの国交を結ぶために奔走。
サーラのことを常に「お嬢さん」と呼び、紳士として接する。
レオポルディーネ
第1代王女。サーラの姉。
国王とは異なる反戦派で、取り巻きの妹達や愛人兼左大臣のサラディーンと共に行動。
冷たく意地悪な性格かと思いきや、母から引き継いだ国を守りたいという信念を持つ。
サラディーン
アルハミドの左大臣兼レオポルディーネの愛人。
実は遊牧民出身の舞台俳優で、政治的な実力は持ち合わせていない。
王女に見初められただけのいわばお飾りな存在だが、ナランバヤルの提案を受け彼に協力する。
ラスタバン3世
アルハミドの現国王。偏頭痛持ち。
腰抜け王と呼ばれたラスタバン2世の名を継いでいることを忌み嫌い、強き王として名を残すことを望んでいる。
祈祷師ピリパッパに盲信中。
バイカリの水資源を手に入れさえすれば国を存続できると考える。
ピリパッパ
祈祷師兼右大臣。
元はしがないマッサージ屋で、たまたま国王の頭痛を治したことがきっかけで右大臣に。開戦派の王を支持する胡散臭いデブ。
ライララ
王宮の刺客。
どこからともなく現れ、サーラたちの手助けをする。
バウラ
ピリパッパの近衛兵。
ナランバヤルとサラディーンの密会現場を目撃。
終盤ある活躍を見せる。
アジーズ
ナランバヤルの提案を受けたサラディーンが彼に紹介した建築家。
エレベーターや動く道など、アルハミドの発展に貢献した人物。
ジャウハラ
アルハミドの学者。
こう見えて手先がめっちゃ器用の知識階級。
オドゥニ
水の国、バイカリの族長。オネエ口調。
国民に対して侮蔑的な態度を取る。
サンチャル
ナランバヤルの父であり、バイカリ国の図書館長。
中盤バイカリにやってきたサーラを手助けする。
感想
事前知識もなく鑑賞しましたが、とても楽しめました。
序盤のラブコメ感も楽しいし、何より登場人物たちがみんな魅力的。
個性的なだけではなく、互いを励まし合いながら難を乗り越えていく様に感動します。
性善説ドンズバに振り切った展開も実写なら小っ恥ずかしいものがありますが、アニメならではの説得力。
作画に突出した部分はありませんが、物語のメッセージ性がそれを超えてきたって感じがしました。
テンポも良く、クライマックスに向けて多くの登場人物が主人公の2人を生かそうと奮闘するところは胸熱。
根っからの悪人というものがほぼ出てこず、それぞれが独自の考えや信念を持って行動しているのがそんじょそこらの映画よりリアル。
最後はどのキャラにも愛着を持ってしまい、エンドロールまでほっこりです。
主人公サーラとナランバヤルが行動を共にする場面はぶっちゃけそこまで多くないのですが、2人でいる時の安心感たるやね。
鑑賞後に原作漫画を読みましたが、映画版の方が細かな台詞やシーンが修正、補完されてました。
戦争シーンが足されてたりもして、国王の葛藤がより胸に迫る。
個人的には原作を越えたのではと思います。
戦争を防ぐ映画ってあんまりない気がします。
戦争をする映画はマジで腐るほどあるのにね。
僕も戦争映画はチラホラ観てますが、だいたい鑑賞後の気持ちがどの作品もだいたい同じなのでぶっちゃけ好きでもありません。「やっぱり戦争はダメやな」って感じ。
今作はノンフィクションの戦争映画よりもとっつきやすい、めちゃくちゃポジティブな反戦映画になってるなと思いました。
結局自分が大きな心を、理性的になれるかどうかというところとか。
人間はめんどくさいもので、自分なりに積み上げてきた経験からくる自信やプライド、「これはこうだから」と決められてきた慣習や取り決めに縛られながら生きがちです。
もちろんそれが良い方向に働くこともありますが、「本当はこうした方がいい」とわかっていても素直になれなかったり、またその時の感情に任せて本心とは異なる行動をとってしまい、結果後悔してしまうこともあります。少なくとも僕はそう。
この映画に出てくる登場人物達はまさにそんな感じなんです。
サーラは姉達と仲良くしたいけど怖くて言い出せないし、サラディーンは金の国アルハミドがいずれ枯渇する事を知りながら、自分はお飾りだからと傍観者に成り下がっている。
そんな彼らが自分のため、はたまた愛する人のために桜梅桃李の活躍を見せます。
そして迎えるクライマックスからのエンディングはもう素晴らしいの一言でした。
政治に置いて最終決定を下すのはその国のトップですが、それを左右するのは民衆の声に他なりません。
大切な人の為、自身の幸せのためにも、ちゃんとした一人間でありたいなと思わせてくれる良作作品でした。
最後に主人公サーラのセリフをご紹介します。
「いつでも難しい方の道を選んでください。
後でよかったと思えますわ。」
ぜひご覧ください。
あごめんなさい最後にもう一つ。
作品自体はベスト級でしたが、ポスターにある「純度100%の優しさ」というコピーはいただけませんでした。
なんかね、自分で言うなって感じ笑。