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ザリガニ、赤紫蘇、クミンー「至福のレストラン 三つ星トロワグロ」

フレデリック・ワイズマンの新作、「至福のレストラン 三つ星トロワグロ」を観た。4時間の長編。「公共図書館」もそれくらいだったか。

トロワグロは、フランスの老舗三つ星レストラン。デパートの食品フロアの店舗を通して、特に首都圏の多くの日本人にとって、初めて聞くフランスの星付きレストランの名前のひとつだったはず。その後、ハイアットリージェンシーにレストランができたが、私は行く機会がないまま、閉店してしまった。

こういうドキュメンタリー、しかもワイズマンのような、なにげない会話が延々と続くドキュメンタリーを観る楽しみは幾重にもある。ひとつは端的に、食についてのアイデアだ。例えば、シャンパーニュに花椒を入れて、香りをつけたものを食前酒に、とか、柑橘の果汁を煮詰めるときには、底面積の広い大鍋で強火で一気にとか。へー、いいこと聞いちゃった!というもの。

もちろん、普段見られないものが見られるということもある。テーブルセッティングで、どれだけ繊細にグラスの位置、カトラリーの向き、椅子の位置を調整して、客が席に案内され、椅子に腰を下ろす瞬間の完璧な環境を準備しているか、とか。料理以外のものも、これだけの解像度で準備されていても、それを受け取れるかどうかは、客の感受性次第だなあとも思う。

今回は、友人とこの映画について語り合う会を予定していて、忘れないように、帰りの電車でたくさんメモしたのだけど、ここでは書かずに、そこで初めて語る楽しみをとっておこう。

ただ、最後のほうのシーンでハッとしたことをひとつ。テーブルでの客との会話の中で、シェフが自分はフランス人のシェフの中で、比較的早いタイミングで日本に来る機会に恵まれたと話す。そして、日本の食材には本当に魅了され、いろいろなものを持って帰り、それらを使って試行錯誤してきたのだと。ドキュメンタリーの中で、全編を通して何度も顔を出す料理のひとつが、ザリガニ、赤紫蘇とクミンが組み合わされたものだった。赤紫蘇は自分たちの農園で育てているという。それ以外にも「もう少し醤油を!」とか「ソースには味噌が入っています」など、いろいろな食材がなんというか、普通な感じで使われていた。

私たちは異文化と出会うとき、自分が受けた影響のことばかり注目しがちだけれど、相手だって同じように影響を受けているのだ、というとても当たり前のことに気づいた。忘れないでおこう。

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