きょう心にしみた言葉・2024年6月12日
ハーバード大学名誉教授のジュディス・L・ハーマンさんの著書「心的外傷と回復」は、1992年に刊行されました、米紙「ニューヨーク・タイムズ」が「フロイト以来、もっとも重要な精神医学書」と紹介したように、世界中で大きな反響を呼び、現在もトラウマ問題の「バイブル」とされています。
今回紹介した「増補新版」は、原書2022年版にもとづいて「あとがき――心的外傷の弁証法は続いている(2015)」と「エピローグ(2022)」が追加されたものです。アフガニスタンの軍事作戦以後に表面化したアメリカ軍人、特に女性兵士の心的外傷、児童虐待の後遺症としての複雑性PTSD、カトリック教会による組織的な性虐待などの問題が取り上げられています。
冒頭の言葉は、ハーマンさんが提唱する治療の取り組み「トラウマ・リカバリー・グループ(TRG)」のメンバーの言葉です。トラウマを抱える人たちが、自らのつらい体験を言葉にし共有することで、心を回復させています。「もう自分は閉じていません。小さな一歩であっても、とにかく歩き出すことができます」は多くの人に希望を届ける言葉です。
ハーマンさんは、この本を書いた目的を明確に掲げています。
「本書はつながりを取り戻すことにかんする本である。すなわち、公的世界と私的世界と、個人と社会と、男性と女性とのつながりを取り戻す本である」
また、1996年版を訳した精神科医の中井久夫さんは、「訳者あとがき」で、ハーマンさんの考察をもとに、自らのいじめ被害に言及しながらいじめ加害者の行為を分析しています。まず被害者を「孤立化」させる、続いて一切の抵抗は無駄と証明する「無力化」にかかり、被害者が「降伏」の状態になると、被害者は加害者のささいな見逃しや微笑みさえも恩恵と受け取り、最後はいじめという行為すら見えなくなる「透明化」に陥る、と。自殺は最後の自己の尊厳を守る行為であるうる、とも指摘しています。ハーマンさんの本には、この加害者の戦略があまりにも具体的詳細に書かれていて、「いじめる側に本書が詠まれては困るという考えが一瞬頭を掠めたほどである」と打ち明けています。この本のすごさが別の意味でもわかります。
「心的外傷と回復【増補新版】」の続編にあたる「真実と修復」は、このコラムでも取り上げています。
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