日記 2021/05/06 寝られないんだよぉ
他の子どものことはどうか知らないが、2歳10ヶ月の娘はとにかく寝付きが悪い。布団に入るのは大抵21時前後だが、それからぐだぐだと布団の上で過ごして、実際に寝付くのは早くても21時半、遅ければ23時近くになる。最近は「寝られないんだよぉ」とよく言って、寝付きが悪いことを少し悩んでいるようにさえ見える。
寝付きの悪さが遺伝するのかは知らないが、僕もかなり寝付きが悪かった。寝ようとしても何かが気になる。外から聞こえる車の音が気になる、雨の音が気になる、一緒に眠る弟や母のいびきが気になる、耳鳴りが気になる。
中でも最も気になり、そして怖かったのは暗闇だった。真っ暗だと眠ることができない。だから寝る際には必ずオレンジ色の常夜灯をつけた状態で寝ていた。
先日、真っ暗が嫌だと娘が言ったので僕の子どもの頃と同じように常夜灯をつけてあげた。「あ、オレンジ色だ。これいいね」と言って、その夜は割かし寝るのが早かったように思う。
しかし、それからずっと常夜灯をつけているかと言えばそうではない。常夜灯を欲するときもあればそうでないときもある。娘は暗闇が嫌で寝られないというわけでもないのかもしれない。なぜ眠れないのかと尋ねても今はまだ上手く言語化できないようで、「だってぇ。寝られないんだよぉ」と言うだけだ。別に原因を明らかにする必要はないし、原因を知りたいのは僕の子どもの頃と同じなのか知りたいという僕のエゴなのかもしれない。
物心ついたときから寝るのが苦手だったから、寝られないときのアドバイスを送ることはできる。誇るものではないが、寝付き悪い歴35年の大ベテランである。
今でも最も頻繁にすることは、寝る寸前まで活字を読むことだ。特に縦文字であれば視線が上から下に動くからなおいい。だからネット記事ではなくて活字本がいい。漫画も視線が斜め下に動くような感じだから眠気を誘う。1ヶ月のうち28日くらいは活字を読みながら寝落ちする。僕としては効き目がもっともあるので勧めたいところではあるが、娘はまだ活字を読むことができないためこれはアドバイスとしては有効ではない。
活字を読んでも寝られない時には、子どもの頃に弟が言っていたことを実践するようにしている。弟は小5でそれぞれの部屋が与えられるまで一緒に寝ていたが、寝られないと言っているのを聞いたことがなかった。それを不思議に思って、ある日弟に寝られないことはないのかと聞いてみた。
弟は何をそんなことかと言わんばかりに、「あるよ。そがんときは吸って吐いてばゆっくりすると。吸って吐いてばゆっくりして、その音を聞くごとすればいつの間にか寝れるばい」と言った。いま考えれば瞑想のようなものだ。それを自分で発見し、教えてくれて以来、弟のことをずっと尊敬している。
これは娘にとっても有効かもしれない。ゆっくりと呼吸をしてその音を聞くだけなのだから。と思って教えてあげようとしたが、娘にはまだ難しかったようだ。吸って吐くと言っても何のことだかわかっていなかった。娘はまだ呼吸をしているという意識がないのかもしれない。
2歳10ヶ月の娘に言うことがあるとすれば、ただ目をつぶる、というだけのことかもしれない。目をつぶらないかぎりは寝ることはできない。目をつぶりさえすれば、いつの間にか寝られる。当たり前のことだが、それしかない。目を開けたまま寝る特殊な才能を持つ場合は別だが、それが始まりであり、寝る可能性を生み出す唯一の方法だ。
もし目をつぶると怖いと言うのであれば、それにも心から同意できる。
目をつぶるとまぶたの裏の模様なのか、血液が巡っているか、赤や緑や黄色や紫やいろんな色がぐにゃぐにゃと動く。そのぐにゃぐにゃは波紋のように広がったり、上から下に下がったり。規則的な動きが気持ち悪い。そしてなぜなのか、怖い。
そのぐにゃぐにゃは目を開けても残っている。横に寝ている母の顔を見ても上からぐにゃぐにゃが動く。気持ち悪い。
それは暗闇から抜けるとなくなる。外の街灯を眺める。もしくはトイレに行き煌々とした明かりの中に座る。
もっともそのぐにゃぐにゃが見える頃には暗闇は真っ暗ではなくて墨色くらいだ。暗闇から抜けぐにゃぐにゃがなくなったとは、ぐにゃぐにゃが戻ってこないように常夜灯をじっと見つめる。オレンジ色の明かりはいつだって味方だ。
娘と寝られないことについて語り合いたい。
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