これから活躍するには「変化の激しいところに行こう」松尾豊教授が中高生と語る「未来を切り開くAIの授業」(後編)
ライフイズテックがこの夏に開催した、日本を代表するAI×データ界の識者・起業家による中高生向け講演会「未来を切り開くAIの授業」。2日目は東京大学大学院工学系研究科/人工物工学研究センター松尾豊教授がゲストです。
前編では、松尾先生の子供時代から、現在取り組む研究や起業家育成について講演内容をお伝えしました。後編では、中高生からの質疑応答の様子をお届けします。
(高校1年生/女子)
先ほど、スタンフォード大学での経験を話されていましたが、アメリカと日本の学生における起業に対する考え方の違いはどこから生まれていると思いますか?
(松尾先生)
いい質問ですね。皆さんは起業と聞くと、そういうのもあるのか、という感じで思っているかもしれません。しかし、資本主義経済の中では、起業することの方が普通なんです。会社をつくるというのは普通の行為。田舎で商店街があれば、魚屋さん、八百屋さんとかがあって、全部会社なんです。会社をつくって、事業をして稼ぐというのが普通なんです。
ところが日本は1970年代からの高度経済成長期に、製造業がうまくいって、大企業化したんですね。なので、そこに入ることがエリートへの道筋で、大企業で働くことが良いという雰囲気になってしまった。製造業以外では、大手の銀行とかね。本当はそうじゃなくて、会社を自分でつくるのが普通なんです。
スタートアップ企業をつくって成功すれば、早くから活躍できるし、社会にも貢献できるんです。シリコンバレーとか、スタンフォードの人は、そう思っている人が圧倒的だと思います。
(高校3年生/男子)
将来的にゲーム会社に勤めたいと思っています。最近、AIを駆使して、入力した内容でキャラクターをつくれる技術が出てきましたが、いま流行っているものが最先端であるのかということをどう確認すればいいですか?
(松尾先生)
ゲーム制作にAIを使うシーンは、いろいろとあると思います。5年後、10年後も大きく変わってくると思いますし、そのときになってみないとわからないこともたくさんあります。ただ、若い人の戦略というのはシンプルで、「変化の激しいところに行く」ということです。
要するに、今年流行っている技術も、来年になるとだいぶ古くなっているという業界を選ぶべきなんです。そういう業界って10年選手、20年選手というのがいないので、3年ぐらいでトップに行けるんですよね。若者だったら、非常に進化の早い業界・業種で名を上げて、活躍してから、だんだんと変化の遅いところに移っていく。それが基本戦略だと思っています。
(高校2年生/女子)
7月に政府から、初等教育、中等教育における生成AIの使用に関する方針で出ましたが、自由研究や読書感想文において、ChatGPTなどを使うのは自分にメリットがないと教えるべきという内容でした。私は、自分にとってプラスになるような上手な使い方を教えて、自分の知識の幅を広げられるようにしてあげるべきだと感じたのですが、生成AIを使った教育についてお聞きしたいです。
(松尾先生)
おっしゃる通りだと思いますね。ただ、今の教育の手法に生成AIが合わないのも事実です。学校側は、生成AIを使ってズルをしてほしくないというのはわかります。でも、生成AIの教育におけるインパクトというのはそういうものではないんです。レポートを書かせるとかではなくて、自分が興味を持ったものを深く知るために、生成AIをどれだけ使いこなせるかだと思うんです。レポートの課題について、ChatGPTに先行研究を聞くとか、ブレストするとか、そういう使い方をすると研究対象をより深く知ることができます。
例えば、子どもの頃に「なぜ? なぜ?」と聞いて、親を困らせた経験ってありますよね?親は答えられることは答えてくれるけど、だんだん難しくなると面倒くさくなって答えてくれなくなる。でも、「なぜ?」と聞くのが何よりも大事で、深掘りしていくと理解がどんどん進んでいくんです。
今の画一的な教育ではなくて、興味に合わせていくらでも深掘りすることが、生成AIによって今後は可能になります。それぞれの人が、興味を持つポイントに合わせて、教育を提供できるようになるのです。これによって、現行の画一的な教育では、才能を開花させられなかった人が、活躍できるようになります。それこそが、教育における大きなインパクトだと思っています。すごく大事な質問でしたね。
(中学2年生/女子)
中学に入ってから研究を始めています。その研究は生物分野や環境科学など多岐の分野に渡っていて、最近は情報分野でも進んでいます。松尾先生は、今後、重要になってくる研究というのは、どういう分野になると思いますか?
(松尾先生)
これまであまり言ってこなかったのですが、結局、生物学とか環境科学などの分野も情報工学やAIを使って最新の研究が進められています。イノベーションが起こっているところは、ほぼすべてそうです。例えば、EV(電気自動車)も後ろ側にAIとか情報テクノロジーがあるから成立しています。コロナのワクチンができたのも、後ろでAIとか情報テクノロジーを使っているんですよね。だから、こんなに短期間でワクチンができた。
表面上では、いろいろなイノベーションが起きているように見えるけれども、私からしたらすべてAIの貢献だと思っています。すべて、プログラミングとそのほかの分野の組み合わせで、新しいことが生まれている。逆にそうじゃないと、こんなにいろんなことが急に起きるわけない。
皆さんがどの学問分野を選ぶにしても、AIやプログラミングを学んだ上で、専門分野に進んでもらえるといいと思います。チャンスがあるし、若い人が活躍できる余地があると思います。
松尾先生、貴重なお話をありがとうございました!
松尾豊教授
東京大学 大学院工学系研究科/人工物工学研究センター
2002年東京大学大学院工学系研究科電子情報工学博士課程修了。博士(工学)。産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学客員研究員を経て、2007年より東京大学大学院工学系研究科准教授。2019年より同教授。専門分野は、人工知能、深層学習、ウェブマイニング。2020-2022年、人工知能学会理事。2017年より日本ディープラーニング協会理事長。2019年よりソフトバンクグループ社外取締役。2021年より新しい資本主義実現会議 有識者構成員。
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