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「とてもエキサイティングな時代。これだ!と思ったものは信じてやっていく」松尾豊教授が中高生と語る「未来を切り開くAIの授業」(前編)
ライフイズテックがこの夏に開催した、日本を代表するAI×データ界の識者・起業家による中高生向け講演会「未来を切り開くAIの授業」。2日目は東京大学大学院工学系研究科/人工物工学研究センター松尾豊教授がゲストです。
講演後の質疑応答まで大いに盛り上がった本講義、松尾先生が語った「AI時代の未来の切り拓き方」とは?
AIとの出会い:小学5年生からポケコンでプログラムを書いていた
今日は、私がなぜAIを研究しているか、というところからお話ししたいと思います。
はじまりは単純なのですが、小学5年生の時に、両親からポケコン(ポケットコンピュータ)をもらって、びっくりしたからなんです。一番最初にもらったポケコンは、1万円札くらいの大きさで、ディスプレイには15文字くらいしか映らない端末なんですが、これまで遊んでいたおもちゃとは違うぞと。なんでもつくれてしまうし、明らかにすごいものだと思ったんですね。それ以来中高時代はゲームを作ってみたり、雑誌を読み込みながらプログラムを書いたり・・・。当時住んでいた香川県にはまともな電気屋さんが1店舗しかなくて、ひとりで休みの日に高松の電気屋さんに行って、PCを触ったりしていましたね。
でもパソコンのメモリは当時はすごく小さかったので、プログラムをちょっと長く書くとすぐにいっぱいになってしまう。スピードも遅いし……。
なので、パソコンの性能が上がったら、「PCの中で無限の世界がつくれるな」と思ってたんです。宇宙ですら誰かのPCの中なのではないか、というSF小説がありますけど、当時の私はそういうことすら真剣に考えていました。
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そんなことを考えていたからか、中学・高校くらいから、自分の「存在」というのは何なんだということに思考が広がりました。自分はここに存在しているように見えるけれど、本当なのか?目の前にあるものは本当に存在しているのか、もしかしたらどこかのプログラムの中なんじゃないか、とか……。
そこから発展して、こういったことを考えている自分の脳はいったいどうなっているのかというところに関心が広がったんです。
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「世界で一番面白い研究をやっている」
東京大学に入り、学部4年に上がるときに研究室を選択するわけですが、そこで研究室リストに「人工知能」というのがあって、これだ、と思ったんですよね。「存在か、認識か」といったことを考えていたし、知能はいつかつくれると思っていたんです。
ただ、すでに知能ができていれば面白くないと思い、大学の図書館で人工知能の本を読んでみたら、どうやらまだ人間の知能をつくる技術は実現できていないらしいと。これはラッキーだと思って、人工的に知能をつくる研究しようと決意しました。
この頃から迷いはなくて、ずっと世界で一番面白い研究をやっていると思っています。
今、人工知能が流行っていて、皆さんも生成AIを使っていると思うのですが、それでも人間のような知能は未だにできていない。賢くなっているというのは確かなのですが、人間の脳とはだいぶ違っている。これはどうしてだと思いますか?
私たちの脳は、常に情報処理をし学習をしています。人間の脳もある種の電気回路なので、電気信号が行き交っていると思ってください。シナプスがつながって、ニューロンが発火する。学習するときには、ニューロンのつながり方が変わっていくんです(脳の可塑性)。このように、脳の神経細胞のはたらき自体はだいぶわかってきました。それでも未だに脳全体がどういうアルゴリズムで動いているのかわからない。2023年になった今もわかっていないって、すごくないですか?
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博士論文でディープラーニングの登場する未来を予測
人工知能という研究分野は、私が生まれるよりもずっと前の1956年からありました。
今は第3次AIブームと言われています。生成AIが出てきて、第4次ブームと言ってもいいかもしれないですね。
私が大学生の頃は、第2次AIブームが終わった頃の「冬の時代」で、みんな人工知能という言葉を避けていました。なぜなら、ブームのときにはみんな過剰な期待をするけれど、実現できないとがっかりして、忘れようとするからです。
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そんなAIの「冬の時代」の2002年に、私は「特徴量」に関するこんな意味合いの博士論文を書きました。
「人間は10回、100回と同じことをやっているうちに、自分のことを観察して、法則に気づき始めて、工夫をしようとしますよね。ところがコンピュータに100回やれと言ったら、100回同じことをやるわけですが、何も変化が起きないし、工夫もない。
それが、AIと人間の違いで、人間のすごいところです。なので、今のコンピュータを賢くしようと思ったら、“気づく”ということができるようにならなければいけない。今の言葉で言うと、『特徴量』を見つけるということなんですけど、それをできるようにならないといけなんです。」
そして2015年、この「特徴量」を認識する技術が、画像認識の分野で成果を出したんです。人工知能において、一番難しかった問題をついに超えてきた。これは一大事だと確信したわけです。
その後、「アルファ碁(Google DeepMind)」が登場したり、深層生成モデルができたりして、ブームが加速していくわけです。そして、2022年後半から生成AIが出てきて、現在に至るわけです。
東京大学・松尾研究室から「世界で戦える技術大国のエコシステムをつくる」
大学院の博士課程修了後に、シリコンバレーに行っていた話もしておきましょう。私は、2005年から2007年まで、アメリカのスタンフォード大学で、客員研究員をしていたんです。
その当時、GoogleとかFacebookが上場したてで、めちゃくちゃ大きくなっていたんです。しかも、Googleのエンジニアが、スタンフォードに来て、検索エンジンのつくり方とかを教えるわけですよ。一番旬なものを教えて、それでGoogleに入る学生もいれば、自分で起業する学生もいる。トップ企業が最先端の技術を大学で教えて、そこから起業して活躍する人が出てくる仕組みがつくられていたんです。
大学の研究者が理論を突き詰めて、大発見!というのも大事です。ただ、大学の研究が企業の事業に結びついて、そこでデータが集まって、それからまた大学に戻り研究するというサイクルがないと、世界に勝てないと気づいたわけです。
なので、東京大学の「松尾研究室」は、「世界で戦える技術大国のエコシステムをつくる」ために、「知能を創り、未来を拓く」というビジョンを掲げて、現代の世界で活躍するために必要な、Web工学やデータサイエンス、ディープラーニング、アントレプレナーシップ(起業家精神)を研究しています。ライフイズテックとやっていることは近いですね。
実は今、受講者数がどんどん伸びていて、今年は1万人を超える予定です。驚くことに、中高生の受講者もすごく増えているんです。「松尾研」から起業したスタートアップも現在18社あるのですが、高校時代に「松尾研」に加わって、18歳や20歳で起業する、といった人もいるんです。スタンフォードとかでも一番優秀な人たちは、起業するんですよね。「松尾研」のまわりもだんだんシリコンバレーのようになってきている気がしています。
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とてもエキサイティングな時代。これだ!と思ったものは信じてやっていく
今日は、私の子ども時代からのことをお話ししました。振り返ると自分がいいなと思ったことをやっていても、それをわかってもらえないことの連続だったんですよね。でも、20年後くらいになると周囲がやっと理解して……そんなのわかってたことじゃん!と何度も思うわけです。
だから、皆さんもこれだ!と思ったものは信じてやっていくのがいいと思います。まわりが理解するのは遅いですし、そんなものです。逆にまわりがすでにわかっていることをやっても意味がないです。
そして、これからの時代は、生成AIが相当大きなインパクトをもたらします。技術課題はたくさんありますが、それらは順次解決され、応用範囲はますます広がっていくでしょう。そうなると、「人間とは何か」が問い直される時代になります。これまでは、人間の脳がブラックボックスであるというのが前提でしたが、その認識が変わる。さまざまな「判断」や「予測」が可視化され、仕事や日常生活も大きく変わるでしょう。とてもエキサイティングな時代だと思います。
なので、まずはAIに触れて、気になる分野を勉強してみるのがいいと思います。
学びが満載だった松尾先生の講演。
後半の質疑応答では、中高生から次々に質問が飛び出しました。
その様子は後編のnoteでご覧ください!
「未来を切り開くAIの授業」開催レポートはこちら!