㊱ちいさいおうち
今日の午前中に、友達が「大好きだ」と言っていた、山田洋次監督の映画『小さいおうち』を観ました。もう、観るのは六回目ぐらいになるでしょうか ──。
2021年に友達と mixi でやり取りをしていた時、彼がこの映画のことを教えてくれました。僕が昔の日本映画ばかり観ていることを知っていた友達は、僕にもこの作品を気に入ってほしかったのだと思います。
直ぐにこの映画のDVDを購入して鑑賞しました。いつも観ているもっと古い映画とは肌合いが違いましたし、最初はこの作品をそれほど良いものとは思えなくて、話の筋もまるで勘違いして捉えていました。
ところが今は………今朝の僕はこの作品を観て涙が零れました。
《以下、少しネタバレを含みます》
タキという少女が女中として奉公する、東京郊外の家。住んでいるのは玩具会社に勤める男 (雅樹) と、その妻 (時子) 、そして二人の間に生まれた子供。簡単に言ってしまえば、妻が夫の会社の芸術家肌の部下と不倫をする訳ですが、そのストーリーの影に、タキの同性への思慕が詳しく語られることなく、ひっそりと存在しています。
勘違いはこんなシーンで起きました。時子の友人 (というよりも信奉者) である睦子という女性が、タキに向かってこう言います…「つまり、好きになってはいけない人を好きになってしまっているのよ」。僕はこれは時子と部下の間の不倫のことを言っているのだと捉えてしまったのですが、それは実はそうではなく、タキが時子に抱いている密かな想いのことを指していたのですよね。
劇中 “女性から女性への想い” が、それほどハッキリと描かれている訳ではないので、勘違いしたとしても仕方ないか…とも思います。ただ、この睦子というキャラクターにはビアンの感じが充分に出ていましたし、このシーンでかなり突っ込んだ科白も出てきていますから、あそこでピンと来なくてはいけなかったな…と思います。年を取ってからのタキを演じた倍賞千恵子が、「あんた想像力が貧困だね~」なんて言葉を言いますけど、自分なんか全くその “想像力貧困” な輩だったみたいです。
友達はこの映画を観て、“そのこと” が直ぐに解ったのかな…。原作は直木賞を受賞した有名な作品のようですし、友達は原作も読んでいて、そちらではもう少し踏み込んだ同性愛的描写があるのだと言っていましたから、或いは最初から解っていてこの映画を観たのかもしれません(それとも、友達は僕よりもずっと敏感で、映画の方を先に観て直ぐにそれと解ったのだ…ということも有りそうに思われます)。
この映画は観る人に想像させる余地のたっぷりある作品だと思いますから、結果として奥行きのあるものになっている…と言えるかもしれません。
映画は妻夫木聡演じる健史 (タキの姪孫) の「おばぁちゃんの、あの深い悲しみの原因はいったい何だったのだろう」…というモノローグで幕を閉じます。
タキの死後、健史は一つの真実を見つけますが、それでもなお知られることのなかった別の真実。
誰とも結婚することなく生涯を終えたタキ。おそらく、誰にも知られることのなかった、同性への思慕。
もしかしたら、友達はその辺りのことを自分の身に置き換えてこの映画を観ていたのではないか・・・そんな気がしています。
この映画の公開は、今から丁度十年前の 2014年1月25日。友達からは2021年4月の入院前、電話で「杠さんから見て (この映画は) 合格点でしたか??」って何度か続けて訊かれました。彼は本当に、僕にこの映画を好きになってほしかったのだと思います。全く作品の理解が出来ていなかった自分。ちょっと恥ずかしいです。
今は僕にとって、忘れられない大切な作品になりました。
[追記] 22:07
はっきり描かれなかった部分について言及のある文章を見つけました。⬇
(⬆このブログ、ちょっと誤字が目立ちますね・・・)
※[追記]
原作の小説も読んでみました。