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中山間地域にこそ図書館を

 

 図書館は、たくさんの恩恵を私たちにもたらす。
 教養や学力向上と一言で表しても、その価値がどれだけ人生において重要か理解しがたいかもしれない。
 わかりやすく説明すると、図書館で出会った本たちは、自分が直接体験することができない古今東西、様々な世界を教えてくれる。
 図書館での読書体験は、自分と似た意見ばかりが自動的に表示されるネット検索のアルゴリズムとは根本的に異なる。自分と違う意見、想像を超える歴史的事実、あっと驚く発見、心躍る文学…。
 多種多様な事象を知ることで、短絡的で直感的な物の見方から、複眼的で論理的で柔軟な思考が身につくようになる。人はできるだけ早いうちに、知的好奇心を満たすという体験をしておく方がいい。
 複眼的で論理的な思考を身につけておけば、人生の幅、人生の可能性が大きく広がる。中山間地域に暮らしていても、図書館でたくさんの本に囲まれたくさんの本を読むことで、世界は広いということがわかり、自分の人生が可能性に満ちていると感じられるようになる。
 人生の幅が広がるとは、わかりやすく言えば、職業も住む場所も選択肢が増えるということ。なにかに縛られたり、自分を諦めたりする必要がなくなるということ。子どもたちの未来を明るくし、大人たちの幸福度を高める。それが本であり、図書館である。
 
 図書館の恩恵はそれだけではない。県は図書館振興による効果を「図書館は地域の可能性を広げる『知のインフラ』」だと述べている。「地域力向上」「産業振興」「情報格差の是正」など、地域に図書館があることに、メリットこそあれデメリットは見当たらない。
 しかし、どんなに図書館に効果があろうとも、人々に足を運んでもらわないことには意味がない。行きたくなる図書館でなければ、恩恵は何も得られない。
 その点、高知県には最高の成功体験がある。オーテピア高知図書館。公益社団法人日本図書館協会の「日本の図書館 統計と名簿 」によると、2017年、高知県立図書館の来館者数は全国平均を大きく下回る約25万人だった。しかしオーテピア高知図書館が2018年に開館すると利用者は急増。2020年には100万人の大台を突破。大都市を抜いて全国1位となった。


 オーテピアは、県民に来てもらおうと様々な工夫を凝らしている。学習本と郷土本だけではなく、中心市街地であることから「ビジネス本」を充実させ、子ども、暮らし、医療と県民のニーズに合わせた蔵書を展開し、さらには間口を広げるため「しゃべれる図書館」として利用者同士が話をすること認めている。
 平日の午後、オーテピアにいくと絵本コーナーでは、子供に読み聞かせをする親子の姿がある。会議室ではミーティングをするビジネスマンや団体もみられる。もちろん勉強をする学生もいる。
 オーテピアが県民にもたらす恩恵は計り知れず、いまやオーテピアは高知が全国に誇る公立図書館と言っても過言ではない。

 四万十町でも老朽化した図書館と美術館に替わる施設として文化的施設の建設計画が、あった。しかし9月22日、四万十町議会は、規模縮小を求める住民投票条例案を否決した上で、さらに予算案まで否決。計画を「休止」に追い込んだ。
 聞こえてきた議論は「予算規模」や「運営費」といった言葉ばかりで、そこに子どもたちの未来や、大人の幸福度といった視点からの意見が飛び交っているようには思えなかった。
 大型書店のない中山間地域だからこそ、魅力的な図書館は必要だ。
 
 こういった結果になってしまったことを、四万十町の有権者の一人として、子どもたちに謝りたい。

 魅力的な図書館で、ワクワクドキドキしながら興味の赴くままに次々に本を手にする知的好奇心を満たす体験をさせてあげられなくなったことを。

 新しい図書館で、目の前の世界は広く自由で人生は可能性に満ちているということを、体験させてあげられなくなったことを。

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