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そしてボクは途方に暮れる

夏至間近の石垣島。

サトウキビ畑の道をボクの車が走っていく。闇夜がうっすらと明るくなり、南の島の大きな空は美しく、何かに祝福されているような、そんな時間になるはずだった。ポンコツ車を運転していたボクは感覚の全てが麻痺。友人に預けた長女にいったいどんな顔で、弟の誕生を告げたらいいのか、ただただそればかりを考えていた。

真夜中、長女を知り合いのおウチに預けて向かった病院。産まれてくるのが男だというのはわかっていた。大きくなったらキャッチボールをして、いやいやサッカー…これで一姫二太郎もう充分。脳天気に人生のゴールを見たようなココロ持ちだった。

長女の時も出産に立会いした。この手でこの目で新しい命を全身全霊で感じた。弾けんばかりの眩く、それはそれは人生で一番美しいキラキラした瞬間だった。そんな瞬間をまた体験したいと長男の出産にも立会いした。でもあの時の感覚とその時はあまり掛け離れていた。ちょっと…おかしい…この世に産まれた長男はまるで生気を感じさせず、鬱血しているようにも見えた。辛うじて小さく泣き、そして分娩室から連れ出されていった。漂う空気もギクシャクしていて、今まで診察で何度も顔を合わせていた先生も、ボクらと話すことを少しためらっているように感じた。そしてついにその時はやってきた。

出産に全力を使い果しその時すでにマリアと化したヨメと、それを労う少しだけ戸惑っていたヨゼフなボクを、祝福する天使ではなく、お医者さんと看護婦さんが取り囲んだ。薄々感じていた違和感を、明らかな異常事態と認識しつつ、悪い夢なんじゃないかと、ボクはまだ現実から逃れようとしていた。お医者さんが発した「21トリソミー」。あぁダウン症のことだと理解するのに1秒もかからなかった。「あくまで可能性です…それが確定するまでには時間がかかります」先生の話しは理解できる。ただ不確かな時間はボクらをますます不安にさせる。喜びを感じてしまったら、それが確定した時に何倍も失望してしまう、いや絶望してしまう。ボクは折れそうなココロを支えるのに必死だった。だからその確率を質問させてもらった。答えは…「90%ほぼ間違いありません」

ようこそナゴム。今なら言えるし、そう感じる。でもその時ボクは手放しでそう思えた訳もない。むしろ全身全霊を以て否定したかった。病院の中にいた、たった3時間で全てが変わってしまった。全てに満たさていた…そう思っていた世界は正に砂上の楼閣だった。目の前の世界が急激に色褪せていった。普通のごくありふれた家族。クソ喰らえだったそんなチッポケな夢すらかなわない。
人生、もうすぐ雨のHighway。
そしてボクは途方に暮れる。

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