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越境 (北アイルランド)

4日間の滞在のうち、1日だけツアーに参加をしてみた。ダブリンから北アイルランドまで連れて行ってくれるツアーで、朝から丸一日所要する。これに参加をしたのは、立ち寄り先のひとつ(というか、目玉)であるGiant's causeway に行きたかったからである。

Giant's causeway は北アイルランドの、本当に真北にある。ダブリンから行くには、車がないと自分で行くには厳しい場所だ。

ツアーの集合時間は朝6:45。その集合場所に行くにもホテルからは徒歩で30分かかるので、身支度も考えると当日は朝5時半には起きなくてはいけなかった。

当日、眠い目をこすりながら、まだ暗いダブリンの街を歩く。あれやこれやしてたら、着いたのは集合の5 分前で、なんと私が最後のひとりだった!母国の、時間守る国民性というイメージを見事に破る。いや、正確には遅れてはないのだが…

バスは時間通りきっちり出発し、北アイルランド目掛けて一気に北上。バスガイドをしてくれたのはアイルランド人のお兄さんだった。彼はツアーに慣れていて、とても饒舌で、でもうるさすぎず、とにかく見事なガイドだった。

アイルランドと北アイルランドの国境あたりで、急に彼がマイクを握り、


「これから北アイルランドに入ります、パスポートコントロールがあるので皆さん身分証明を出してくださいね!」


と言う。車内が一瞬シーンとする。
それを見て、

「ごめん、うそです。」

と続けてガイドが言う。どっとみんなが笑って、同時に安堵のため息をつく。

しかし越境コントロールは昔はあったという話をその後にしてくれた。軍隊が銃を持ち通り抜ける人の身分証明を確認していたと。彼の母親は一度コントロールにひっかかったことがあり、銃を突きつけられた話も。

「今こうやって何事もなくボーダーを越えていることは、かつての人々にとっては信じられないことなんだよ。」

そう彼は教えてくれた。


さて、バスはいつの間にか海が見える場所に私達を連れて行ってくれていた。
そこには、たくさんの羊!ダブリンのギフトショップにそりゃたくさん羊グッズがあるわけだ、と納得。黒のお肌でとても可愛らしい羊がたくさんいた。

彼らが自由に草を食べている様子を横目に、バスはついに目的地のGiant's causeway へ到着。

Giant's causewayは一言で言うと、圧巻だった。写真やガイドブックで見たままだったし、それ以上の感動を覚えた。

わたし北アイルランドのこんな端っこにいるんだ。ふいに自分が立っている場所が信じられなくて震えてしまった。それくらい嬉しかった。

ところで、この時実はわたしには連れが出来ていた。バスで隣の席に座っていたフィリピン人の女の子である。フィリピンといっても、どうやらダブリンに住んで5年は経つらしい。アイルランド内は色々と旅行しているものの、Giant's causeway には行ったことがなかったらしく、観光客に混じって参加していた。バスの中で簡単に話すうちに打ち解けて目的地を一緒にまわるようになっていた。

とりあえず彼女は気遣いができてよく私に声をかけてくれるのだが、彼女はどうもなぜか「あなたの写真を撮ってあげる」と何度も言ってくれる。

最初は「え、いいよ〜」と断っていたがあまりにも押しが強いので写真を撮ってもらうことに。どこかのインスタグラマーのようなピンの写真撮りには全く慣れてない私だったので、大自然をバックに少し恥ずかしげにカメラにうつる自分の写真が死ぬほど携帯のアルバムにあって、見返すと笑ってしまう。でもこういう機会でもないと、自分がGiant's causeway にいる写真なんて撮れなかっただろうから、彼女には感謝である。もちろん私も彼女の携帯で写真をたくさん撮った。我ながら、人を撮るのはうまいと思うのだが、気に入ってくれてたら良いな。

ひとりで参加したツアーだが、友達が出来てさらに楽しくなった。バスを降車したら一緒に歩きながら喋るが、バスの中ではガイドの彼が結構喋ってくれるので、喋りすぎて疲れることもなく、丁度よい距離感で一緒にいることができた。

とある別の目的地で、わたしが今日はコーヒーを飲んでいなくて眠いということ何気なく伝えたところ、彼女はカフェで私の分までコーヒーを買ってくれた。本当に優しい子だった。コーヒーはとても美味しかった。

バスは、帰りは渋滞に巻き込まれながらも無事にダブリンに私達を連れて戻ってきてくれた。またまた夕暮れのダブリンの街を見ながら、充実した1日を過ごせたことをありがたく思った。

ツアーが解散したあと、そのフィリピン人の彼女が帰る前に一杯どう?と誘ってくれた。もちろん!と言って一緒に例のTemple Bar のエリアに繰り出す。もう夜8時を過ぎたTemple Bar は、平日にも関わらずそれはそれは賑わっていた。

適当に良さげなPubを選び、中へ。とても混んでいて席を見つけるのが難しかったが、運良く飲み終えたカップルと交代してなんとか席につく。

わたしはギネスのHalf pintを頼んだのだが、彼女はBayleys という甘いSpiritsを注文していた。少し味見させてもらったが、甘くて美味しかった。カルーアミルクを思い起こさせる。恐らくアルコール度数は高いとは思うのだが。私はそもそもあまりお酒は飲めず、種類にも疎いのでいちいち勉強になる。

彼女は姉と一緒にこのダブリンに住んでいるらしい。ダブリンのLiving Costは高いが、彼女は以前住んでいたロンドンに比べると天地の差であり、住みやすいと話していた。

最後、お別れする前に、この日初めてツーショット写真を撮る。あんなに写真をお互い撮りまくったのにそれまで一枚も一緒に撮っていなかったのだ。ライトが光り美しいパブを背景にして。

昨日、このTemple Bar のエリアを歩いたときはこのどこかのPubに入ることなんて考えもしなかった。モチベーションも勇気もなく、私には少し敷居が高い場所だった。しかし今日わたしは友人と一緒にお酒を飲み交わしていた。昨日は壁で隔てられていたTemple Barという場所に、ダブリンという街に、少しだけ入り込めたような、そんな気がした。



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