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金縛り物語

初めて金縛りを経験したのは、小学6年生のころだった。怖い話が大好きだけど、怖がりなので思い込みかもしれないと疑うことは忘れない。

その頃は、目を開けると解けるので、無理にでもぐわっと目を開けて起きていた。

ある日、ぐわっと目を開けたら、土手を歩く親子連れが見えた。逆光で姿は影のように真っ黒。ドキッとした次の瞬間にはちゃんと自宅の風景に戻った。以来、金縛り中に目を開けられなくなった。

あとで知ることになるけど、金縛りは睡眠麻痺という状態で、本当は寝ているらしい。普通は浅い眠りから入るものが、急に深い眠りに入ってしまい、身体が動かないと思っているとかなんとか。だから、あの親子連れの光景までが夢の中だったんだと思う。

そうは分かっても、見えるはずのない光景を見るのは怖い。

私が金縛り状態になると、どこかに送り込まれるような不思議な感覚になる。ごぉーっとか、きぃーんとか、聞こえているというか脳内で響いているようなそんな感じ。

よくTVや雑誌とかで、指を少しずつ動かして解くという話を見聞きしてきたけど、私はそれができない。漫画とかで、縄で縛られている屈強な男が「ふんっ!」と身体に力を入れで縄をぶっちぎるように、力を入れる。

30代ぐらいのときに、解いても解いてもその状態になるので、とうとう疲れて身を任せたら、きぃーんという音を聞いていると、広い空間に吐き出されたように感じた。プツリと無音状態になり、無重力空間にいるようだった。ビックリして飛び起きた。

話は前後するけど20代の時、ある趣味の仲間と合宿したことがある。その宿で割り振られた部屋が奇妙だった。壁四面の低い位置に横に細く長く鏡が貼りめぐらされていた。立って座る分には気にならないけど(いや、気になるか)、これは寝たら鏡の中が気になりそう。

同じ部屋の子たちと話し合って、違う部屋に入れてもらうことにして、その部屋は使わなかった。

合宿から帰って数日後、金縛りに状態になった。なんとなく私はそのとき、あの鏡の中にいると思った。まっ暗い空間から、細く長く明るい場所を覗こうとしていた。目は開けてないのに、見えているように感じることもある。まあ、それも夢の中にいたということなんだろう。

私の母も金縛り体質だった。よくうなされていた。いつしか私も、うなることで金縛りから脱するようになっていた。目が開けられないからね!

眠りはメンタルにも影響を与える。母と私の体質は似ているのかもしれない。金縛り中に精神がどこかに行ったまま帰れなくなったら、私も母のように狂うのかもしれない。母は既にどこかに精神を置いてきた状態なのでは…なんて考えていた時期もあった。

さて、そんな大迷惑な金縛り。8年前に母が亡くなってから、ほとんどなくなった。この8年間の回数は片手で足りると思う。酷い時は毎日あったのに。最近だと五輪の開会式の日。お祭り騒ぎに、なにか活性化されちゃったのかしら。

金縛りは心霊現象ではなく「睡眠麻痺」で、感じているということは夢なんだから、母が生きている亡くなっていることは関係ないはず。

ここで母が守ってくれていると結論付けてしまうと、自分が経験した金縛り中のエピソードのいくつかが心霊現象の肯定につながってしまう。そこは抗いたい。他人さまの話を聞くのは好きだけど、自分のこととなると抗いたくなるのは何故だろう。あれは夢、あれは夢。

まあでも、守られてはいると思う。もうすぐお盆だ。今年もお墓参りは出来そうにないけど、こうやって思い出すだけでも供養になっていると信じている。

…あれ。もし母が守っているとしたら、いまの私に起きている金縛りは、睡眠麻痺の症状で心霊要因ではないということになるのか。そう考えると怖くないぞ!金縛り!

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