呪いの家
「我が家は呪われているんじゃないかと思って」
すっかり酔っ払って、話の前後は思い出せないけどそんな話を長兄に振った。
「なんでそう思ったん?」
「本家の(長男の)奥さんが、ボケて台所でたばこを吸うようになって、火事を起こしそうになったってことが昔あったけど、同じ時期に母さんも台所でたばこを吸っていたから」
なんか変だなあと思っていた。母の場合、父が吸い終えたたばこを吸っていて、貧乏臭くて汚らしくてイヤだなあと思っていた。火事にはならなかったけど、あわやということは何度かあった。
長男の嫁が狂う呪い。
長兄がポロリ。「本家は2代続けて、長男の嫁が狂っている…」。ええ、そうなの? と聞き返したけど、長兄はそれ以上詳しくは教えてくれなかった。私も聞かなかった。お互い酔っ払っていた。
関係性で言うと、私たちの祖父の長兄とその息子(父のいとこ)。
まあ、だからどうだという話もなくて。甘納豆が好きだった、あのおじいさんもそんなことになっていたのかと衝撃だった。
母はいつのまにか、たばこを吸わなくなっていたけど、本家の長男の奥さんは施設に入ったとか聞いた気がする。その後亡くなって、長年の愛人が後妻に入り、それを嫌った後継ぎが出ていった。諸悪の本家の長男も、出ていった後継ぎへの恨み節を周囲に漏らしながら鬼籍に入った。
父が亡くなってから、父の妹が親戚からもらったという祖父が出征するときに撮影した家族写真を見せてもらった。
近所だけど一度も立ち入ったことのない本家は、大きな木が目印だった。その木は昔は2本あったという。その時代の写真。祖母に抱かれた生まれたばかりの父の姿を見ることができる。
父には同い年のいとこが2人いて、多分その人たちと思われる子もいる。祖父母のきょうだいたち。私の血縁者、母を壊した人たち。
いまは、その本家には元愛人が1人で暮らしている。本家の長男との子供もいるらしいけど、後継ぎということでもないようだ。
「え、本家終了?」
「まあ、そういうことだなあ」
呪いは達成されたのか。
だれの呪いなんだろう。
なにしたんだ、先祖。
長兄の妻が、我が子を思う気持ちに付け込んだ、自己啓発セミナーみたいなものにハマったときは、ここにも呪いが…と密かに思っていた、という話はしないことにした。
義姉は結局目が醒めて、いまもちゃんと夫婦をしている。もう20年ぐらい前の話だ。次兄と私、父の弟妹の子供たちも未婚なので、分家も終了予定。
長兄の一人息子、私の甥が、若者に流行っている海外出稼ぎに行こうとしている。海外で呪いが圏外になって、幸せな家族を築いてくれたらいいんだけどなあ。
海外の地で根付く私の血縁、考えるとワクワクする。子供がいるということは、そういうことなのだと今さら気付く。
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