自転車に乗って
新調した自転車に名前を付けた。茶色なのでチャコちゃん。チャリンコのチャコちゃんでもいいかもしれないけど。
初めてメジャーメーカーのママチャリを買った。高校時代、親に買ってもらった自転車と同じブリヂストン。創業者が石橋さんだから、ブリヂストンというネーミングセンスが大好きだ。多分、買ってもらった時に、父か兄に教えてもらったんだと思う。チャコちゃんを漕ぎながら「ブリッジストーン、ブリッジストーン」と反復している。
大人になってから自分で買った自転車は、適当に安物を選んでいたから、すぐにブレーキかけると大きな音が鳴るようになったり、パンクしやすくなったり大変だった。
愛着持てずに適当に使っていたからそうなったのか、そうなったから愛着を持てなかったのか思い出せないけど、5年ぐらい前に買った自転車は、ほとんど乗らずに錆びてタイヤもべこべこのまま、引っ越し前に粗大ゴミに出した。
名前も付けなかった。
初めてチャコちゃんに乗った時の、心地の良さに感動して名前を付けなきゃなと思った。気に入ったから名前を付けたくなるのか、名前を付けたら愛着が湧くのか、自分の心理がイマイチわからない。
東京はすごい。街の自転車屋さんがまだ生きているから。高校時代に買ってもらった自転車屋さんは、だいぶ前に店主が亡くなって店を閉めた。そこから、雪崩のように近所の自転車屋さんは姿を消して行った。似た年代の人たちが亡くなる時期で、後継者がいなかったのだろう。
田舎の、田舎ながらの風景を褒める人は多いけど、人が大勢いないと文化は残していけないんだよなって、故郷が既に無くしたものを多く残している東京に、なんとも言えない感情が湧いてくる。羨望?嫉妬?なんとなく「ずるい」に似た感情。
「2カ月後に整備に来てね」「ここで買った自転車なら、無料で空気入れるからね」
あれ、高校時代の私は整備なんて行ったっけ?
お客さん獲得のためのサービスが至れり尽くせり。人がいなくなると、街から無くなる文化があることを私は知っている。何度かパンクを直してもらっていたのに、あの店主の名前も思い出せない。あの自転車は、3年間片道35分(30分切ることを目標にしていたけど果たせなかった)を走り抜き…どうしたんだっけ?
新しい自転車の鍵には、既に蛍光ピンクのキーホルダーが付いていた。今回、自転車を買ったお店のおじさんのお父さんは、あの店主と同じ世代かもしれない。故郷では、雪崩のように消えていったけど、泣く泣く継がなかった人もいたかもしれない。
私は結構、薄情だ。毎日乗った自転車の最後を思い出せない。チャコちゃん、これからよろしく…なんて締められなくなってしまった 笑。
もう少し、丁寧な生き方をしたい。